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「老化のウソ」最新研究でわかった新常識。「1日3食」「ベジファースト」「日々の運動」は老化を促していた!

「老化」を研究すると、健康のためだとされている常識が実は老化を促すこともあることが分かってきた(写真/PIXTA)

「老化」を研究すると、健康のためだとされている常識が実は老化を促すこともあることが分かってきた(写真/PIXTA)

「人間五十年、化天のうちを比ぶれば……」。47才で没した織田信長が好んだとされる一節からは、当時の寿命が50才前後と認識されていたことがうかがえる。だが実は、その当時も「人間七十年」は当たり前だったという。「人間百二十年」の時代を目前に、“老い”の研究の最前線を徹底取材。

監修・取材

・東京大学教授 小林武彦さん
・東京大学医科学研究所教授 中西真さん
・Y’sサイエンスクリニック広尾の統括院長 日比野佐和子さん
・順天堂大学医療科学部特任教授 長岡功さん

老化研究の第一人者「老化するのは人間だけ」

私たちの目下の命題は、最期まで楽しく健康に生きるため「老化」をいかに食い止めるかということ。

だがそれは人間だけが背負わされた課題だと、東京大学教授で『なぜヒトだけが老いるのか』著者の小林武彦さんは言う。

「なぜなら、そもそも『老後』は人間にしか存在しないからです。メスの生殖能力が失われてから死ぬまでの期間を〝老後〟と定義した場合、閉経する年齢を迎えた後も生き続けるのは、シャチ、ゴンドウクジラ、ヒトのみ。遺伝情報がヒトと99%同じチンパンジーでさえ、閉経したらすぐに死ぬ。人間以外の動物はほぼすべて“ピンピンコロリ”なわけです。近年はペットの介護や看取りも話題になりますが、本来、野生の犬や猫に老後はない。ペットや動物園の生き物は人間に飼われているため、捕食されたり飢えたりする危険がありません。そのため、彼らは体が衰えても“死なずに済んでいる”ということ。彼らは人間の都合で老後が“つくられて”いる、特別な存在なのです」(小林さん・以下同)

つまり、陸上の哺乳類で老いて死ぬのはヒトだけなのだ。その有力な理由と考えられるのが「おばあちゃん仮説」だ。

「ほかの動物と比較すると、ヒトの赤ちゃんを育てるのは圧倒的に大変です。例えばゴリラの赤ちゃんは生まれてすぐに自力で母親の体毛を掴むので、母親は母乳をあげながら両手を自由に使って動くことができるうえ、夜泣きもなく、当然離乳食も不要です。一方、ヒトの赤ちゃんは常に母親が抱っこしていなければならず、暑さや寒さにも非常に弱い。子育てに適切な環境を整えるには、母親と父親だけの労力では難しい。ヒトが進化していく過程で、子育てを手伝ってくれる元気で長生きなおばあちゃんとおじいちゃんのいる家族やグループが、よりたくさんの子孫を残せた。そのため、ヒトには長い老後が誕生したのではないかと考えられています」

事実、ヒトと同様に閉経後も生き続けるシャチとゴンドウクジラにも、「孫育て」をする習性があるという。

 

70代は「第二の思春期」。乗り越えると80代は卓越した状態に変化

つまり「老後」は人類の繁栄にとってなくてはならない大切な期間なのだ。

「ヒトはほかの動物とは異なり、自分以外の他者のことを考えて利他的な行動ができる生き物です。だからこそ、いまのような発展した社会があるわけです。人類の歴史において、社会をまとめてきたのはいつの時代も“シニア”です。長く生きてきたからこその知識や経験を生かして争いを仲裁したり若い世代に知恵を授けたり、そしてコミュニティー全体で孫やひ孫を育てる手助けをしてきました。こうした素質を持つ“いいシニア”が、人類の繁栄を支えてきたと言っても過言ではありません。もちろん、年長者だからといって自分の既得権益ばかりを主張し、子供や若者の成長を邪魔するような高齢者は“老害”ですが、ただ高齢だというだけでお荷物扱いするのは望ましくありません」

“いいシニア”への道は老化に伴う葛藤の先にこそ開かれていると、小林さんは続ける。

「体が若い頃のように思い通りに動かなくなり始めてイライラや不安が高まる70代は、人生においてもっともつらい時期。そこを乗り越えて85才くらいになると、『老年的超越』と呼ばれる心理状態に変化します。容姿や身体機能の変化が気にならなくなり、自分より周囲のことを考えるようになるなど、卓越した世界観を持てるようになるといわれています。いわば70代のイライラは“第二の思春期”のようなものなのです」

 

平均寿命はまだ延びる?江戸時代でも珍しくなかった70代

“第二の思春期”という言葉が生まれたのは寿命が延びたことのたまものだろう。

女性87.09才、男性81.05才──知ってのとおり、日本人の平均寿命は世界トップクラス。戦前~戦後間もない頃の平均寿命が50才前後だったことを考えれば、80年足らずで約30年も延びているということになる。だが「昔はみんな50才までしか生きられなかった」というのは大きな間違いだ。

「平均寿命は、生まれたばかりの0才の人が何才まで生きたかの平均を調べたもの。つまり子供の死亡率が高ければ、その分平均寿命は下がる。戦時下や戦後すぐの頃は若くして亡くなる人が多かったため、算出される平均寿命が低いだけなのです。室町時代の平均寿命は15才前後、江戸時代は35才前後とされていますが、これも当時は栄養不足や伝染病などで亡くなる子供が多かったから。75才まで生きた徳川家康のように、無事成人できれば70代まで生きる人は決して珍しくありませんでした」

「『老後』は人間にしか存在しない」と語る小林武彦さん

「『老後』は人間にしか存在しない」と語る小林武彦さん

 

認知症は「脳の老化」とは限らない。脳の成長は止まらない

平均寿命が延び、多くの人が長生きするようになった結果、発症率が上がった病気もある。そのひとつが認知症だ。

現在、85才以上の4人に1人が認知症か認知症予備軍といわれている。だがそれを「脳の老化」と決めつけるのは早計だ。

「脳の神経細胞が年齢と共に減少するのは事実です。神経細胞の数は小学生頃までがもっとも多く、それ以降は減っていく。しかし神経細胞が減っても脳機能が低下するわけではありません。脳のネットワークは“よく使う部分”が発達していき、使えば使うほど、その部分は何才になっても発達し続けます。年を重ねるほど使わない神経細胞から減っていき、洗練されていくイメージです。高齢になっても趣味や勉強、仕事など新しいことを始めれば、これまで使ってこなかった細胞が刺激されて成長するので、脳の成長は何才になっても止まることはないのです」

積極的に新しいことに挑戦して社会とかかわることこそが、ヒトの老後に与えられた役割であり、人間だけの楽しみでもあるのだ。

「そのためにも、年齢による差別や定年制は不要だと考えます。定年制度が始まったのは昭和初期の頃で、当時は“55才定年”。これは当時の平均寿命(40才前後)に合わせたものなので、実は当時は、生涯現役で働くことが前提だったのです。いまの定年は60才ですが、日本人の健康寿命である72才までは、体力的に働けるはずです」

85才以上の4人に1人が認知症か認知症予備軍といわれるがそれを「脳の老化」と決めつけるのは早計だという

85才以上の4人に1人が認知症か認知症予備軍といわれるがそれを「脳の老化」と決めつけるのは早計だという

 

間違いだらけの「老化」「若返り」知識

“現役”に年齢は関係ないとはいえ、日本では65才以上を「高齢者」と定義しており、65才以上になれば「年寄り」の仲間入り……というイメージを持つ人は多い。だが、東京大学医科学研究所教授の中西真さんはあくまでも「言葉上の定義」に過ぎないと指摘する。

「生物学的なヒトの老化度は、見た目や体力、臓器機能などを総合的に勘案して決まるものです。たとえ同じ65才でも、老化の程度には個人差があります」

老化を進める主な原因は、「酸化」と「糖化」の2つ。Y’sサイエンスクリニック広尾の統括院長の日比野佐和子さんが説明する。

「酸化は、精神的ストレスのほか紫外線などの環境要因によって体内に発生した活性酸素が細胞を傷つける、いわば“体のサビ”。一方の糖化は体内で糖とたんぱく質が結びつき『AGEs』という老化物質を生成する“体のコゲ”を指します」

要するに、老化するかどうかを分けるカギは生活習慣が握っているのだ。遺伝による影響もあるがその度合いは3~4割に過ぎず、6~7割は環境要因が関係しているとされる。

 

「肌の老化」のウソ。アンチエイジングの方法に注意

「特に肌の老化は環境要因が大きく、8割が紫外線によるものです。中でもしわへの影響は甚大で、自然にできる表情じわよりも、紫外線によってできるしわの方が深い。それはつまり、しわやシミといった肌の老化は、日焼け止めなどの紫外線対策だけでもしっかり予防できるということ。むしろ市販のアンチエイジング化粧品には効果が怪しいものも多い。例えば幹細胞から分泌され、肌の若返り効果が注目されている『エクソソーム』は、常温では効果は大幅に下がります」(日比野さん)

せっせとアンチエイジングに励んでも、それが間違った方法なら逆効果。情報をアップデートしていこう。

 

「老眼」「白髪」のウソ。「加齢臭」におすすめの栄養素

まず知っておきたいのは「近視の人は老眼になりにくい」というのは、都市伝説に過ぎないということ。順天堂大学医療科学部特任教授の長岡功さんが話す。

「老眼の主な原因は、水晶体という目の中にあるレンズが劣化して柔軟性が失われ、近くのものに焦点を合わせる目の調節力が低下することです。そのため、近視も遠視も関係ありません」

多くの女性の悩みの種である白髪も、いまだに古い知識を持つ人は少なくない。

「髪の毛の色素細胞の働きが低下すると黒髪が白髪になりますが、その原因が加齢だけだというのは大きな間違い。『若白髪』のように、強いストレスや栄養不足でも一時的に色素細胞が休止することがあります。その場合は生活習慣の改善で約2割は元に戻ります。また現在の再生医療なら、加齢が原因であっても、細胞を若返らせることができ、3~4割は黒く戻せるといわれています」(日比野さん・以下同)

加齢臭は「男性特有の老化現象」という見方もアップデートが必要だ。

「加齢によって皮脂中に増えた『パルミトレイン酸』という脂肪酸が酸化することでできる『2-ノネナール』が原因のため、女性でも皮脂が多ければ男性と同じような加齢臭が出る。加齢臭に悩む人に男性が多いのは、単純に男性の方がノネナールを含む皮脂が多いだけなのです。動物性脂肪を摂りすぎないようにし、ビタミンCやポリフェノールなどの抗酸化物質を積極的に摂ることで抑えられます。緑黄色野菜のほか、アントシアニンが豊富なカシスなどがおすすめです」

 

「GLS-1阻害薬」で120才まで生きられる?

これまで老化は「不可逆の現象」と考えられてきたが、近年、その常識は覆されつつある。

「現在は老化を遅らせる遺伝子が発見されていて、動物実験では体内年齢が10年若返ったという論文もあります」

中西さんは健康寿命を延ばすべく、体の機能を低下させる「老化細胞」を除去する研究を行っている。

「古くなって分裂が止まった『老化細胞』は、子供の体にも存在します。ただし、若く代謝がよければ自然と排除されていく。これが加齢によってうまく排除されず体に蓄積すると、老化細胞が排出する炎症性物質によって体の機能が低下すると考えられています」(中西さん・以下同)

この老化細胞を取り除くカギとなるのが、「GLS-1阻害薬」だ。

「老化細胞を生き延びさせている『GLS-1』という酵素の働きを阻害することで、老化細胞を取り除くというメカニズムです。すでにマウスでは実験は成功しており、いまはこれをどう人間に応用するかという段階です。実用化すれば、老化を食い止めるだけでなく、一度起きた老化を“巻き戻す”つまり“若返る”ことすら可能になるのではないかといわれています」

小林さんは「いまの若者が高齢になる頃には、100才まで生きることは珍しくなくなっているはず」と語る。現在の最大寿命である120才程度までの長生きは、もはや夢ではなくなりつつあるのだ。

 

「1日3食」「ベジファースト」「日々の運動」は老化を促進

「若返り」が科学の進歩にかかっている一方で「老化を遅らせる」ことは個人の努力でも充分に可能だ。

だがアンチエイジング同様、多くの人が間違った健康法で、むしろ自ら老化を促進している。例えば、“健康のために”と運動をしすぎると、筋肉中に活性酸素が増えて老化が進むことがわかっている。

「100才以上の長寿者は皆、特別な健康法を実践しているわけではありません。唯一共通しているのは、規則正しい生活。充分な栄養と睡眠を取って、適度に体を動かし、そして生きがいを持っている。いまのところ、それに勝る“長生きの薬”はありません」(小林さん)

ただし、「規則正しい生活」のルールは年齢とともに変わる。老化を食い止めたいなら「1日3食」は食べすぎかもしれない。

「食事の量は適正カロリーの8割くらいに抑えた方が、寿命が延びることがわかっています。また最新の研究から、1日のうちで食事と食事の間をできるだけ長くすることで、健康寿命が延びると報告されました」(中西さん)

かといって、過度なダイエットもNG。若々しく健康でいたいなら、BMI22以上の“ややぽっちゃり”がベストなのだ。

「体脂肪の中のコレステロールが女性ホルモンの材料となり、免疫や骨を強くします。

ひと昔前にブームを起こした糖質制限もおすすめできません。糖質が不足すると脳の老化を促進する物質が50%近くも増えることがわかっているほか、糖質制限によって脳梗塞が起きやすくなったり、学習記憶能力が低下するという報告もあるほど。エネルギー不足で運動量が低下し、身体機能が低下する『フレイル』を招くことも心配です」(日比野さん・以下同)

野菜を先に食べる「ベジファースト」よりも「ミートファースト」の方がいいと、日比野さんは続ける。

「血糖値の急上昇を防ぐために炭水化物を最後に摂ることは推奨できますが、最初は野菜よりも、肉や魚などのたんぱく質を食べる方が老化予防によいことがわかってきました。いずれにしても、炭水化物を最後に摂ることが重要なのです」

あらゆる技術や研究が日進月歩で進化しているいま、正しい情報を選び取って実践する「賢さ」こそが、健康長寿へのいちばんの近道なのかもしれない。

※女性セブン2024年2月1日号

日本人の平均寿命の変化

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