労働流動性が高まってきたとは言われるが、日本はまだまだ新卒で入社した組織の社員として長く過ごす人が大半だろう。とくに、待遇面で安心できる大きな会社に所属したなら、なおさらだ。ところが最近、その人が羨む新卒入社した大会社を辞める若手が続出している。ライターの宮添優氏が、彼らが会社を辞めた理由について聞いた。
* * *
学生の就職先として人気があり、今なお高い給与水準にある大企業に新卒入社したにもかかわらず、早々に退職する若い「エリート層」が続出している。彼らが辞めた会社はどれも、遠くない将来には傾きそうな「泥船」ではない。何より、就職内定の競争倍率が高い過酷な就職試験を突破した彼らがなぜ、早すぎるように思える見切りに至ったのか。
「就職が決まった際は、両親は泣いて喜んでくれました。給与は、同級生に比べても1.5倍から2倍ほど。辞めるなんて贅沢だと言われますが、内情を知ってしまったら退職するしかありません。今はよくても未来がない」
一橋大学経済学部を卒業後、就職人気企業ランキング上位の大手商社に入社した高田隼さん(仮名・20代)は、就職からわずか一年半で退職の決断をした。まだまだ新人で、任せられる仕事はそう多くないものの、海外から輸入する石油やガスなどのエネルギーを扱う部署で、社会に貢献しているという達成感もあった。
「仕事は大変でしたが、確かにやりがいはありました。それでも、働く人の動きはおかしなことばかりでした。以前と比べたら、新卒入社した同期は減っていく一方で人手不足になりかかっていたのに、元いた部署は分割されて部署数が増え、何をするのかわからない役職が新設される。中堅どころになっていた先輩たちに役職が回ってくるのかと思うとそうではなく、さらに上の世代でないと、その新役職はなかなか回ってこないんです」(高田さん)
高田さんの入社からわずか1~2年で、配属された部署は複数に分割された。表向きは「業務の細分化に対応する」という理由だったが、社員数が多い40代以降が昇進して就けるポストを増やすためだったのだろうと高田さんは言う。
「今まで一つの部署でやっていた仕事を二つの部署でやることで、新規の仕事を獲得しなくても役職者の数を増やそうということです。ところが、同じ仕事を大勢でやることになったのに効率が上がるどころか、部署と役職が増えたことで決裁や人的な調整が煩雑化し、若手の仕事だけが増えました。新設部署に栄転した上司たちは”昇給幅が低い”と愚痴っていましたが、若手の給与は増えることすらなく、ただ多忙になるだけ。中堅社員の先輩たちは、いつまでも責任あるポジションに就けないと愚痴っているし、若手は上司たちの養分のような扱いだったんです」(高田さん)