『仕掛人・藤枝梅安』『鬼平犯科帳』、代表作の相次ぐドラマ化・映画化で池波正太郎が再ブームを迎えている。作中でいかにも旨そうな料理を数々登場させ、食エッセイの名手でもあった作家の言葉を味わいながら今宵は飲み明かそう。
日記エッセイをまとめた『池波正太郎の銀座日記〔全〕』(新潮文庫)の中で、60歳を超えた池波は家でも外でもとにかくよく食べている。そこには一食一食を大事にした食いしん坊の姿がある。寿司のシャリは「ごはん」と言えばよいと書き、通ぶらなかった。
大正12(1923)年生まれ、浅草育ちの池波は、飾職人だった祖父の御供で幼い頃から蕎麦屋や鰻屋に行き、浅草・上野の洋食に親しんだ。旧制小学校卒業後は日本橋兜町で働き、先輩からのチップを貯めては銀座の高級店にも臆せず出向いた。
池波が食エッセイを書いた70年代、80年代は飽食の時代を迎えていたが、池波は戦前から続く昔気質の店や思い出の店について綴った。食べる喜びは物質的な豊かさだけではないという、時代への反抗心があったのかもしれない。
●たてこまぬ時に蕎麦前を楽しんだ「神田まつや」【明治17年創業】
名だたる老舗蕎麦屋に通った池波が、なかでも贔屓にしたのが「神田まつや」だ。戦前の下町の蕎麦屋のようにカレー南蛮がメニューに並ぶ気取りのなさを愛し、蕎麦前でゆるりと酒を飲んだ。
住所:東京都千代田区神田須田町1-13
平日:11時~20時半(L.O.20時)、土曜・祝日:11時~19時半 (L.O.19時)日曜
●大カツレツ3枚をたいらげた「銀座 煉瓦亭」【明治28年創業】
日本橋兜町で株式仲買会社の少年店員として働いていた頃、僚友とこの店の名物「大カツレツ」を3枚たいらげたことがあるという。後年は「上カツレツ」を好んだ。
住所:東京都中央区銀座3-5-16
営業時間:11時15分~15時(L.O.14時)、17時半~21時(L.O.20時)日曜