能登半島地震の発生から1か月が経とうとしている。元日に発生した最大震度7の大地震は1万棟以上の家屋を倒壊させ、土砂災害や津波を引き起こした。石川県内ではこれまでに233人の死亡が確認されており、22人が安否不明のままだ(1月22日時点)。厳しい寒さが続くなか、いまも1万人以上の被災者が避難所での生活を余儀なくされている。
元日の出来事ゆえ、帰省時や旅行中に被災した人も少なくなかった。“大地震はいつ発生してもおかしくない”──そう改めて痛感した人も多かっただろう。被災地に刻まれた深い傷痕を目にすると、“もし大地震の発生が予測できたなら……”という期待を抱きたくなる。
地震多発列島に暮らしてきた日本人は、昔からさまざまな自然現象を大地震と関連づけて「予兆」や「虫の知らせ」などと言い表してきた。実際、昨年以降、日本列島では数々の異変が起きており、なかには能登半島地震の予兆とも考えられる事象もあった。
スルメイカ激減 イワシ大量死
大地震の予兆としてよく知られているのが、「海の生物」の異常行動だ。能登半島がある石川県の沿岸では近年、「スルメイカ」が激減しており、県の水産総合センターの発表によると、昨年の水揚げ量は過去10年間で最少だったという。武蔵野学院大学特任教授で地球物理学者の島村英紀さんが解説する。
「海中生物は人間よりもはるかに優れた“地震センサー”のようなものを持っています。大地震が発生する前に、海底ではプレート同士が押し合ったり、ぶつかり合ったりしているのですが、その際の摩擦で『地電流』(地中を流れる電流)や『地磁気』(磁場)が生じているという研究結果があります。
それらは人間の力では感知できない微弱な変化ですが、優れたセンサーを持つ海中生物であれば感知できるのかもしれません。それが生態に何らかの影響を及ぼし、不漁につながっている可能性があります」
兵庫県の但馬地域では、特産品である「ハタハタ」の昨年の水揚げ量が前年比9割減。福島県相馬市では今年1月18日からズワイガニ漁が始まったが、例年に比べてまったく網にかからず、予定されていた初競りが中止になったほどだ。
さらに昨年の後半からは、イワシの「謎の大量死」も目立つ。10月に熊本県天草市で大量死が発生すると、同年12月には三重県志摩市と北海道函館市で海岸を埋め尽くすほどのイワシが打ち上げられた。この現象は年明けも続き、北海道せたな町の漁港と海岸では長さ1kmにわたり魚の死骸が流れ着いた。
「海産物の不漁やイワシの大量死も、地電流や地磁気の影響を受けての可能性があります。注目すべきは、それらの報告が北海道から九州という広範囲で相次いでいる点です。日本列島の下には4枚のプレートがありますが、すべてのプレートが活発に動いている証と捉えることもできる。そうした状態になっているのだとすれば、いまは地震がいつ起きてもおかしくない“異常事態”に入ったとも言えます」(前出・島村さん)
イルカ座礁と迷いクジラ
昨年4月には房総半島(千葉県)の海岸に30頭以上の「イルカ」が打ち上げられたが、その光景も能登半島地震と関連している可能性があるという。
「イルカは特に“センサー”が優れた生物として知られています。イルカが座礁した房総半島の東方沖には2つのプレートの境界があるのですが、近年は同海域を震源とする地震が頻発していることから、これらのプレートの動きが活発化していると考えられます。
今回の能登半島地震も、この2つのプレートによって引き起こされたものとみられていますが、地電流や地磁気で方向感覚を狂わされたイルカが、海岸に打ち上げられてしまった可能性もある。房総半島のイルカの座礁が、能登半島地震の予兆だった可能性は否定できません」(前出・島村さん)
イルカの異常行動は東日本大震災(2011年)の発生7日前にも確認されており、茨城県の海岸に約50頭のイルカが打ち上げられた。
昨年1月、大阪湾の淀川河口付近にマッコウクジラが迷い込み、「淀ちゃん」と命名されたが数日後に死亡した。そうしたクジラたちの迷い込みも、イルカと同じ理屈と考えられている。能登半島地震発生後の1月17日、大阪湾を泳ぐクジラの目撃情報が相次いでいる。次なる地震の予兆なのだろうか。