厳しく冷え込むこの季節。休日には暖かい部屋で読書でもしてみては? おすすめの新刊を紹介する。
『墓じまいラプソディ』/垣谷美雨/朝日新聞出版/1760円
垣谷さん絶好調。先祖伝来の墓に伝統と家長の誇りを感じてきた人々に、妻、娘、女きょうだいらが懐柔と説得と異なる視点の嵐を浴びせる。発端は五月の義母が「夫と一緒の墓に入りたくない。樹木葬にして」と遺言して亡くなったこと。五月の娘達の結婚の“壁”(選択的夫婦別姓)も絡む。著者の技は“思い込みの典型”をユーモラスな浅慮として描くこと。笑ってスッキリ!
『朝、空が見えます』/東直子/ナナロク社/1870円
「ヌクミズは空が好きね」と友人に指摘され初めて気づいた。そういえば10代のころ勉強部屋から空ばかり見てた。歌人で小説家の著者による初の詩集。空というたった一つの対象物なのに“日本語ってこんなに豊かなんだ”と驚く。1月「きいんと白い寒天」、2月「海の底の砂のような空」、3月「ミルクと蜂蜜入りの青空」、4月「こっくりと白い空」。空ってやっぱり希望だと思う。
『ニッポンが壊れる』/ビートたけし/小学館新書/1034円
安倍氏銃撃事件以来、不都合な真実が次々と白日の下に。一芸能事務所に支配されたテレビ界、偽装と不正の経済界、裏金作りに励んだ政界。この惨状にもの申すが、自分の毒舌は子供が「王様は裸だ!」と叫ぶ精神が原点とか。半グレの闇、マイナカードの愚策、スマホは現代の「年貢だ」と。坂本龍一など故人を偲び、大谷翔平と藤井聡太に構造そのものを変える人格の力を見る。
『犬がいた季節』/伊吹有喜/双葉文庫/880円
天皇のご病状で自粛が続いた昭和の終わり、三重県四日市市の進学校、通称「ハチコウ」に白い迷い犬が現れる。早瀬光司郎の席にちょこんと陣取ったので「コーシロー」と呼ばれるようになったその犬は、新陳代謝を続けるハチコウ高3の生徒達の姿を見つめ続ける。話者の違う短編が繋がり昭和〜平成〜令和元年までを描く大河小説で、10代の挫折や断念までもが瑞々しく眩しい。
文/温水ゆかり
※女性セブン2024年2月8日号