「このバトンは愛之助、猿之助のお兄さんから受け継いだもの」──そう言って、歌舞伎俳優の中村米吉(30)が羽織の裾からリレーで使われる緑のバトンを取り出すと、会場は溜息とすすり泣きに包まれた。
1月2日に初日を迎えた「新春浅草歌舞伎」。尾上松也(38)を座頭に、中村隼人(30)や現在、大河ドラマ『光る君へ』で円融天皇を演じる坂東巳之助(34)ら若手人気俳優たちが勢揃いするこの公演は、「若手歌舞伎役者」の登竜門と言われている。
昨年までコロナ禍で自粛となっていた「お年玉ご挨拶」が今年は復活。開幕前に舞台上で俳優たちが年始の挨拶をする。冒頭のシーンはその一幕だ。
米吉が発した「猿之助のお兄さん」とは、四代目市川猿之助(48)のことだ。猿之助といえば、昨年5月に父で歌舞伎俳優の市川段四郎さん(享年76)と母の延子さん(享年75)と共に一家心中を図るも、自身は生き延び、昨年11月には、「睡眠薬を服用させて両親の自殺を幇助した罪」で東京地裁より懲役3年執行猶予5年(求刑懲役3年)の有罪判決が言い渡されていた。歌舞伎ファンが言う。
「事件後は、劇場どころか、ファンの間でも猿之助さんについては『名前を言ってはいけないあの人』という扱いになっていた。それだけに今回浅草で、米吉さんだけではなく、隼人さんや中村種之助さん(31)も浅草歌舞伎の立役者として『猿之助お兄さん』と毎日のように四代目(猿之助)の名前を出すことにファンたちは涙したのです」
自宅周辺での目撃情報もないなかで…
意外な場面で歌舞伎ファンを泣かせた猿之助だが、その現状は杳として知れない。梨園関係者が言う。
「保釈後は凄惨な事件の現場となった自宅に戻り、弟子たちに面倒を見てもらいながら生活をしていたといいますが、最近は自宅周辺での目撃もありません。従兄弟である市川中車さん(香川照之・58)や、ごく一部の松竹関係者としか連絡を取っていないそうで、澤瀉屋一門の役者でも四代目が現在どうしているのかわからないそうです」
1月28日の都内ホテルでの二代目市川猿翁さん(享年83)と段四郎さんの合同お別れ会も、早い段階から「四代目の出席予定はないという話が回っていた」(同前)という。