【著者インタビュー】『超人ナイチンゲール』/栗原康さん/医学書院/2200円
【本の内容】
まるで講談のような、朗々たるリズムに乗せて綴られる、かつてないナイチンゲールの評伝。「はじめに」の最後はこんな調子だ。《一九世紀のイギリスに「超人」があらわれた。はりつけ、上等。このひとを見よ。えらいこっちゃ。わたしが世界を救うんだ。自分の将来をかなぐり捨てて、看護のいまを生きていく。ケアの炎をまき散らす。その火の粉を浴びて、あなたもわたしも続々と「超人」に生まれ変わっていく。/みんなナイチンゲールだよ。いくぜ》。子ども向けのマンガ偉人伝で読んだきりという人にこそ読んでほしい一冊。
他人が決めた尺度を軽々飛び越えて生きる人
気鋭のアナキズム研究者がナイチンゲール? 意外な組み合わせで書かれた評伝『超人ナイチンゲール』がめちゃくちゃ面白い。
「アナキズムと『ケア』ってつながりが見えにくいかもしれないですけど、人が人を支配するのはおかしいと考えるアナキズムには『相互扶助』という考え方があります。目の前で人が倒れていたら考えるまでもなく助けてしまう。我を忘れて誰かのために動いてしまう力、というのが最近注目されている『ケア』の発想とすごくつながるな、と」(栗原康さん・以下同)
小川公代さんの『ケアの倫理とエンパワメント』(講談社)を読んだ栗原さんが、書評紙に短いが熱烈な書評を書いた。医学書院の「ケアをひらく」シリーズを手がけてきた編集者の白石正明さんが、これを読んで栗原さんに本の執筆を依頼したという経緯だ。
もともと栗原さんがナイチンゲールに興味があったわけではなかったという。書くなら評伝が書きやすい、ケアで関心があるのは看護師、と話したところ、ナイチンゲールの評伝を提案されたという。
「子ども向けの伝記とか漫画すら読んだことがなくて」
白石さんからすすめられて最初に読んだのが看護学者の宮本眞巳さんによる伝記『ナイチンゲール』と、ナイチンゲール自身が書いた小説『カサンドラ』だった。
「両方ともすごく面白かったんです。宮本さんの本は女性の自立や女性解放を意識して書かれていました。『カサンドラ』は、看護師を目指すナイチンゲールが家族の反対でくすぶってるときに怒りを全力でぶつけた小説で、すごくぶっ飛んでて面白い。イギリスの上流階級の女性は名家に嫁いで夫に尽くすのが当たり前という時代に、自分で自分の道を選びたいともがいていたときに書かれた小説なので、『女は結婚して得することなんて何ひとつない』とか名言もばんばん出てきます」
そんな「名言」のひとつが本書で紹介される「つぎのキリストは、おそらく女性だろう」だ。『カサンドラ』の女性主人公は志半ばで死んでいくが、預言者のようなこの言葉は、おそらくナイチンゲール本人をさす。
「しびれました。女性解放の先駆者でもあるし、文学的な表現も面白い。神の声を聞いた神秘主義者の側面もある。これは書けそうだなと思うポイントが見つかりました」