【書評】『証言 TBSドラマ私史 1978-1993』/市川哲夫・著/言視舎/2750円
【評者】川本三郎(評論家)
ドラマのTBSといわれるほどTBSはドラマに強かった。そのテレビ局で七〇年代半ばから九〇年代はじめまで、現場の第一線で数々のドラマを手がけてきたテレビマンの私的回想記。映画と違ってテレビドラマの場合、そのプロデューサーやディレクターの名が表に出ることは少ない。いわば影の存在。それだけにドラマの舞台裏を描いた本書は貴重な記録になっている。
著者は若者の叛乱といわれた六〇年代後半に青春を過ごし七四年にTBSに入社。NTVの「太陽にほえろ!」の対抗番組、新「七人の刑事」にAD(アシスタントディレクター)としてついたのを皮切りにドラマの世界に入る。実際に起きた銀行強盗事件にヒントを得た八〇年の三浦友和主演「突然の明日」ではじめてディレクターを手がけた。
以後、数々のドラマに関わるのだが、仕事は実に多岐にわたる。企画から始まり、脚本家との打合せ、キャスティング、あるいはロケハン。民放だからスポンサーとの交渉もある。
そんななかから、高校生が書いた小説のドラマ「アイコ16歳」では初プロデュース。八〇年に銃撃死したジョン・レノンを追ったドキュメンタリーも手がける。
八三年、当時はまだマイナーなスポーツだった女子フィギュアに着目し、その若い選手を描く「胸さわぐ苺たち」や、富山県に日本では珍しいロシア語の授業がある高校があると知って、ロシア語を学ぶ女子高校生を主人公にした「愛の風、吹く」などユニークなドラマを作る。
著者は、企画力が凄い。それまでテレビ番組にならなかったものに挑戦する。例えば、当時、日本ハムの監督に就任したばかりの高田繁の初陣までを追ったドキュメンタリー「ザ・監督」。
あるいはテレビに政治ドラマは不向きといわれるなか敢えて挑んだ「代議士の妻たち」。テレビの世界は視聴率競争が激しい。そのなか三、四十代でこれだけの仕事をした著者が羨しい。
※週刊ポスト2024年2月23日号