「監督をはじめた頃、(北野)武さんと飯を食っている時に相談をしたんです。Vシネマを牛耳ってるプロデューサーがいて、その人と対立してしまった。役者に出るなとか、発売元に物言いとか、遠回しに嫌がらせをされてたのを知りまして。制作サイドからも不安がられてました(笑)。おそらくミュージシャン上がりの素人の俺をこころよく思ってなかったんだと。
すると武さん、『俺なんかもそうだったよ。最初(監督を)やる時に、カメラマンにこう撮りたいんだけどね、と伝えても、いや〜、武さん。それは映画のセオリーじゃないんだよね』と言われたそうです。それでどうしたか聞くと、『クビにした。だから、監督がやりたいように好きに撮ったらいいんだよ。作品は監督のもんだから』と助言を頂いた。それからですね。俺も自由にやろうと思ったのは」
時折、笑みを浮かべながらこう語るのは、『KYOTO BLACK』(2014~2019年)シリーズや『京都カマロ探偵』(2022年)を手掛けた映画監督の吉田由一だ。尊敬する北野武とは約30年前、京都の撮影現場で紹介を受けた。のちにオフィス北野に所属する國本鐘建を通じて、友人と2人で面会したという。
「國本が当時は大部屋俳優で、『残侠』の現場に武さんが来るからと電話があったんです。武さんを中心にお偉いさんが囲んでるなかで、大ファンのキャーボ(川島和祐)の第一声が『武さん、総理大臣になってください!』と本気で言い始めて(笑)。キャーボは、ちょっと変わった奴だけど、凄く熱い男。周りの人たちは顔も引き攣ってて、おそらく制止をしたいんやろうけど、口を挟めない雰囲気。ところが武さんの反応だけは違ったんです。『面白いあんちゃんたちだね。東京来ることある?』と破顔。それで電話番号を教えてもらったのが最初でした」
1週間後の二度目の対面は、東京は赤坂の中華料理店を指定された。TBSで番組収録を終えた北野は一人で現れたという。吉田監督は当時、ロックバンドのヴォーカル。その後に俳優にも挑戦し、『TAKESHIS’』(2005年)や「監督・ばんざい!」(2007年)といった北野作品にも出演した。「武さんとの出会いがなければ映画に携わってなかったかもしれない」とまで告げる。
「現在公開中の映画『首』の撮影現場が京都だった際に、挨拶に行ったんですが、演者のマネージャーですら現場に入れない環境でした。でも、会えました。撮影を中断して武さんが応対してくれたので、嬉しくも、気まずい気持ちでしたが……」