今年、結成16年以上の漫才師による漫才賞レース『THE SECOND』(フジテレビ系)に、ベテラン漫才コンビ「ザ・ぼんち」が参戦する。ツッコミ役の里見まさと(71)とボケ役・ぼんちおさむ(71)の2人がこの日を迎えるまでの52年には、さまざまな紆余曲折があった。ノンフィクションライターの中村計氏が訊いた。【前後編の後編。前編から読む】
「稽古は嘘をつかんな」
1980年に巻き起こった漫才ブームは長くは続かなかった。最大瞬間風速が大きかったぶん、反動も大きかった。B&B、紳助・竜介などブームを担ったコンビが次々と解散し、ツービートは実質、活動を休止した。B&Bの島田洋七は、当時のことをこんな風に語っていたことがある。
「すごい熱量の中に放り込まれたので、いやが上にも全力で走らざるをえなかった。でも、人生はマラソン。そのことに競技場を出て初めて気づいたんですよ。あれ、まだ40キロ以上走らなあかんのか、って。でも、もう走る気力も体力も残っていなかった」
ザ・ぼんちも1986年に解散を発表。まさとは「完全に燃え尽き症候群でしたね」と話す。
「ブームの頃は劇場に集まるお客さんの目が期待で輝いていた。待ってました! って。でも、お客さんも飽きがきたんでしょうね。舞台に立っても、お客さんの気持ちがどーんと下がっているのがわかるんですよ。あの空気感というのは忘れられませんね」
解散してからというもの、まさとは1人の頼りなさを痛感した。
「ここまでとは思わなかったな。おのれの力のなさが。会社はあんなんしよう、こんなんしようと言うてくれたけど、どれも向いてなかった」
解散の3年後、まさとは亀山房代と新コンビを組み、再び漫才師として活動を始めた。一方、もともと役者志望でもあったおさむは長寿番組となるドラマ『はぐれ刑事純情派』の巡査長役を射止める。それはそれで充実した生活だったが、不満もあった。
「舞台って、すぐ反応が返ってくるのが楽しいんですよ。でもテレビドラマはそれがない。しかも、漫才みたいに10分も映り続けられるわけでもないじゃないですか。それがストレスでしたね」