独自の民主主義を唱える専制国家・中国や民主主義を装う権威主義的な国家・ロシアなどが世界で台頭し、米国ではデマゴーグのドナルド・トランプ前大統領が再登板する可能性が高まるなど、近年は「民主主義の危機」と呼ばれるような事象が目立つ。日本でも「投票率の低下」「無投票当選者の増加」などから選挙への関心の低さが読み取れる。民主主義の自壊・空洞化を防ぐにはどうしたら良いのか――そのヒントは意外なところにあるのかもしれない。『「江戸の選挙」から民主主義を考える』(岩波書店)の著者で帝京大学教授の柿崎明二氏(元首相補佐官)に話を聞いた。
日本の民主主義の源流はどこにあるのか。それを論じる時、必ずと言っていいほど1910年代~1920年代にかけて起きた「大正デモクラシー」に焦点が当てられる。だが、実は封建社会の印象が強い江戸時代に民主主義の萌芽と呼べるような高度な自治が存在したという。柿崎氏が語る。
「私は『果たして、外国由来ではない民主主義なんて日本に存在するのか』と思っていましたが、歴史を丁寧に遡っていくと、江戸時代、それも幕藩体制を支えた村の中に“民主的傾向”があったことが確認できました。
具体的には、江戸時代後期、それまで世襲制だった村役人を入札(いれふだ)と呼ばれる選挙で選ぶ村が各地に出現し、一般の百姓を代表して村役人を監査する百姓代という制度が創設されるなどしました。投票できるのは年貢を納める戸主という制限選挙で、投票者の数も、一つの村単位で数百人程度だったとはいえ、投票率が100%近くに達する村もあった。地方選で投票率が30%、20%台が当たり前になった現在とは、驚くべき違いです。こうした江戸時代の民主的傾向の中に民主主義を強化するためのヒントが隠されていると思い、研究を進めました」