SF小説を対象にした世界的な文学賞である「ヒューゴー賞」の選考会で、中国に批判的な作品を候補作に推薦するのは望ましくないとの政治的な判断が働いた可能性が明らかになり、選考のあり方について論議を呼んでいる。
2023年のヒューゴー賞の授賞式は中国四川省成都市で開催されており、その際、中国政府関係者が主催者側に対して、「中国にとって政治的にセンシティブな問題を含む作品の最終候補者」を除外するよう求めたことが分かった。米紙「ニューヨーク・タイムズ」などが報じた。
ヒューゴー賞の最終ノミネート作品は世界SF協会のメンバーによって選考される。主催者側と審査員らがやり取りした電子メールなどが今年1月に公開されており、選考の過程で中国に批判的な作品を除外するよう中国側から要請された事実が明らかになったという。
具体的には主催者の1人が中国のカウンターパートの意を受けて、「中国、台湾、チベット、または中国で問題となる可能性のあるその他のトピック」への言及を含む「中国にとって、政治的にセンシティブなコンテンツ(内容)」を考慮して最終候補者を選ぶよう審査員にアドバイスしたというものだ。
1月に明らかにされた審査経過では、ヒューゴー賞の2023年のノミネート作品と投票データが公表されており、最終選考に選ばれるのに十分な票を獲得した複数の作家が除外されたことが分かった。
除外された作家の中には中国系作家が2人おり、1人は中国系アメリカ人作家、R・F・クァン(Rebecca F. Kuang)氏で、作品は19世紀半ばのオックスフォードを舞台にした歴史ファンタジー『バベル、あるいは暴力の必要性』。もう1人は、中国系カナダ人の作家、 シーラン・ジェイ・ジャオ(Xiran Zhao)氏で、中国の女性権力者を題材にしたSF小説『アイアン・ウィドウ』を執筆した。
2023年の同賞の受賞作の中には中国人作家、海漄氏の『時空の絵師』が入っているが、海氏はこの作品のモチーフになったのは「中国国営中央テレビ局の文化財をテーマにした番組だった」としており、世界的にも権威のあるヒューゴー賞のあり方が問われている。