【週刊ポスト連載・医心伝身】能登半島地震の避難所ではコロナやインフルエンザ感染が広がっている。寒さや不安による免疫低下に加え、歯磨きの回数が減り、口腔内細菌が増殖したことも原因だと指摘されている。口腔内細菌は虫歯や歯周病の原因となるだけでなく、糖尿病の悪化や心筋梗塞・脳梗塞など重篤な病気も引き起こす。まずは歯の治療に関し、これまでの認識を改めることから始めなければいけない。
口腔内細菌の存在が確認されたのは1900年代初頭だ。アメリカの細菌学者ミラー博士らが、骨髄炎や敗血症、結核、梅毒など様々な病気の原因について研究したところ、口内の細菌が関与しているのを突き止め、『感染源としてのヒトの口腔』という論文を発表した。その後、多くの医師や学者が研究を開始。
例えば歯周病患者の急性心筋梗塞発症のリスクが、そうでない人と比べて約3割も高いなど各種の病気に対する口腔内細菌の関与が報告されている。
そして2023年、東京歯科大のグループが、インフルエンザ感染リスクと口腔内細菌の関与についての発表を行なった。
その具体的な成果は65歳以上の高齢者を、歯磨き指導群と自己流歯磨き群に分け、6か月間追跡調査をした結果、自己流歯磨き群は歯磨き指導群に比べ、インフルエンザの感染リスクが、実に10倍も跳ね上がったというものだった。
口腔内細菌に詳しい波多野歯科医院(さいたま市浦和区)の波多野尚樹院長に聞く。
「歯科治療は細菌との闘いと機能を治すという2本柱なんです。虫歯になると多くの患者さんは歯を削り、詰め物をすれば治療は終わりと思っていますが、それは間違い。本来の虫歯治療とは口腔内細菌をいかに排除するかが重要となります。当院では受診する全ての患者さんに、口腔内細菌について学ぶ講座に参加していただき、きちんと歯磨きができるようになってから治療を始めています」