NHK大河ドラマ『光る君へ』で話題になっているのが、黒木華(33才)演じる源倫子の飼い猫・小麻呂だ。小麻呂を演じているのは、動物プロダクションのグローバル・アニマルアクトに所属する9才のオス、ニモくん(ミックス)。今年1月に放送された『義母と娘のブルースFINAL2024年謹賀新年スペシャル』(TBS系)、『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(テレビ東京系)、さらに日産自動車のイメージキャラクターや、東北電力のローカルCMにも出演している。
小麻呂は劇中の癒しであるだけでなく、史実を忠実に再現した存在でもある。日本で文献史料に猫が登場するのは、まさに平安時代から。劇中では秋山竜次(45才)が演じる藤原実資は、道長やその姉、詮子が内裏で猫が生まれたことを祝う様子を「奇怪なことだ」と日記に記している。一条天皇も「命婦のおとど」という猫をかわいがるなど、平安朝の宮中にはすでに「猫好き」がいたのだ。東京大学大学院准教授で古典文学に詳しい永井久美子さんが解説する。
「日本最古の“猫日記”を残したのは、一条天皇の高祖父、宇多天皇。黒猫を溺愛し、毎朝『酪』(ヨーグルトのような食品)を食べさせ“墨の如く深い黒色で、丸くなる姿が宝玉のようだ”と絶賛しました」
永井さんによれば、当時の猫は黒、白、灰系の色がほとんど。
「平安末期の説話には『しろね』と呼ばれた猫が登場しますが、現存する平安・鎌倉時代の絵巻には茶系の猫の姿はなく、まだらや縞模様の猫が首輪をして飼われていた様子が描かれています」(永井さん・以下同)
清少納言も「背中が黒くてお腹が白い猫がかわいい」「赤い首綱をつけているのが優雅だ」と『枕草子』に綴っている。ドラマに登場する小麻呂は左大臣家の飼い猫だが、実際の絵巻には、庶民の家の猫も描かれている。
「高貴な人に特に人気があったのは、舶来の『唐猫』でした。本郷奏多さん(33才)が演じている花山天皇には、父帝である冷泉天皇の皇后・昌子内親王に唐猫を贈ったという逸話もあります」
ドラマが大きく動いた雨のシーンなど、小麻呂が物語の“加速装置”として働いているように、『源氏物語』でも猫が重要なカギとなっている。
「第三十四帖の『若菜上』と、続く『若菜下』に登場する猫は有名です。柏木という男性が、光源氏の妻となった女三の宮に思いを寄せていました。ある日柏木たちが庭で蹴鞠に興じていると、猫が誤って御簾を引き開け、女三の宮の姿があらわになってしまう。この垣間見をきっかけに、柏木はさらに恋心を募らせ、その猫をゆずり受けて思い人の代わりにかわいがるのです。その後、柏木は宮に強引に迫り、ついにふたりは子を成すに至ります」
『源氏物語』では、奇しくも恋の波乱を巻き起こした猫。ドラマにおいても、小麻呂の“次の活躍”に期待が高まっている。
「劇中では猫を飼っている倫子が、史実では道長の妻となります。『源氏物語』のさまざまな場面へのオマージュがちりばめられたこのドラマで、これから猫の小麻呂が物語にどうかかわってくるか、注目しています」
今後も小麻呂から目が離せない。
※女性セブン2024年3月21日号