スニーカーブームのからくりを学べば、あらゆる商売に応用できる。スニーカーという特別な商品をひもとけば、世界経済がわかる──。『スニーカー学』(KADOKAWA)でそう綴るのは、スニーカーショップ「atmos(アトモス)」創設者の本明秀文さん。2021年に約400億で会社を売却し、現在は「おにぎり屋」を営む。
スニーカーは消耗品かつ生活必需品でありながら、自分を表現するファッションアイテムでもあり、高級車や高級時計のようなステイタスシンボルでもある。さらに、二次流通市場の拡大によって「スニーカー投資」が過熱するなど、株式や不動産と同じ投資財にもなった。この世に流通する商品のあらゆる要素を兼ね備えているのがスニーカーなのだ。スニーカードリームを掴み、新たな挑戦を始めた本明さんに、お金の稼ぎ方、商売の面白さについて聞いた。
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スニーカーは貨幣になり、ブームは終わった
──2014年頃から始まった(第二次)スニーカーブームは終わったが、未来につながるカルチャーの土壌ができたと本に書かれています。スニーカー市場は今、どんな感じでしょうか?
2018年くらいから爆発的に売れるようになったんです。そのころから「NIKE(ナイキ)」は世界一のブランド価値を有し、2021年時点でスニーカーの世界市場は約1311億ドルと評価されていました。でも僕は、このブームは長く続かないだろうと、コロナ前から思っていました。ブームになるとメーカーが作りすぎるんです。資本主義の論理として、それは仕方ないことなんだけど、人は手に入らないから高くても欲しいわけで、容易に手に入るものは売れないんです。
もう一つ、ブームの背景には、アジアの人々の所得向上がありました。でも、アジアのお客さんもけっこう買っちゃって、いまは飽和状態にあると思います。
──スニーカービジネスの特徴として、転売市場が拡大することで「スニーカー投資」にも注目が集まりました。スニーカー自体というより、投資対象として興味を持つ人が増え、それによってスニーカーブームがしぼんでいったとも指摘されています。一方で、副業として成立するだけの儲けを出すことも可能だと。投資対象としてのスニーカーの魅力は?
スニーカーの場合は投資ではなく、投機でしょうね。スニーカーは長期保存できませんから、短期で売り買いするのに向いている。手軽に始められるのも魅力で、転売ヤーとは別に、個人で儲けを出している人もいます。そういう人は、誰もが欲しがる人気モデルではなく、そこまで人気ではないモデルを選んだり、海外モデルを選んだりしています。
投機が過熱した背景には、デジタル化があります。インターネット上にマーケットプレイスができ、ユーザー同士がオンラインを通じて売買できるようになりました。今は男女がマッチング・アプリで出会いますが、あれと同じですよね。トレンドなのだと思います。
──本明さんはスニーカー業界から離れましたが、今後のスニーカー市場の展開についてどう見ていますか?
これまでのスニーカーブームを牽引してきたのはナイキです。新しいテクノロジーの靴が出てこないのが、現在のナイキの問題です。
そうこうしているうちに、ハイブランドがスポーツ業界に進出してくるかもしれません。一昨年、DIOR(ディオール)が、米国人プロボクサー(ライアン・ガルシア)のトランクスを作ったんですよ。ハイブランドが作ってもパンツはパンツですけど、この選手はハイブランドにサポートされてるんだな、って、観客は思いますよね。たとえば、ナイキより時価総額の大きいLOUIS VUITTON(ルイ・ヴィトン)が、市場からお金をひっぱってきて新しい工場を作り、機能素材を使ってアパレルをやり、スニーカーを作り始めたら、ゲームチェンジャーになって、ナイキは落っことされる可能性だってあるわけです。