終戦直後の日本、焼け野原を目の前にした多くの人たちに希望を与えた名曲『東京ブギウギ』。手がけたのは「ブギの女王」と呼ばれた歌手の笠置シヅ子と、数々の国民的ヒット曲を生んだ作曲家の服部良一のコンビだ。現在、絶賛放送中のNHK連続テレビ小説『ブギウギ』でも繰り返し演奏される、2人が愛した“ブギ”に、近年驚きの動きが──。
「おーい、福来くん! これ、きみの歌だ! すごいのができてしまったよ!」
長い苦しみの末、『東京ブギウギ』の着想を得た作曲家・羽鳥善一(草なぎ剛・49才)は興奮を隠しきれず、福来スズ子(趣里・33才)に声をかける。『ブギウギ』第19週(2月7日放送)の名シーンだ。物語は佳境にさしかかり、最終回まで残すところあと1か月を切った。
「2月の初旬には撮影がクランクアップしました。撮影が始まってから約1年。主演の趣里さんは長期にわたる大阪での撮影、大きな重圧に落ち込むことも少なくなかったそうですが、明るく笑顔で歌って踊るスズ子役を完走しました」(テレビ局関係者)
昨年10月の放送開始直後から大反響を呼び、視聴率も好調だ。特に『東京ブギウギ』が劇中に初登場した第19週は、週間平均視聴率が16.5%と番組最高の数字を叩き出した。その後もドラマには『ジャングル・ブギー』『買物ブギ』など服部良一が作曲し、笠置シヅ子がレコーディングしたブギが登場し、ドラマを賑わせている。
実際に服部は「ブギ」と名の付く作品を数多く残しており、レコードとして発表されているものだけでも30曲以上はある。しかし、実はそれ以外に「幻のブギ」が存在するのだという。
「服部先生の主要作品リストに曲名が掲載され、レコードとして発売されているにもかかわらず、いまとなってはレコード会社に原盤が残っていない曲や、楽譜が残されていない曲は少なくありません。あまりに古すぎて入手や確認が困難になった“忘れられた曲”は、相当な数に達すると考えられます」(音楽関係者)
そんななか、新たな動きがあったのは、約2年前のこと。服部のブギが朝ドラのテーマになると発表されると、日本全国の音楽研究者らが世に埋もれている作品の調査を開始し、いま続々と「幻のブギ」が発見されているのだ。
そのうちの1つが、1946年に作曲されたものの、音源が残っていなかった『神戸ブギ』だ。大衆音楽に詳しい大阪大学大学院の輪島裕介教授が服部さんの遺族に協力を依頼し、膨大な遺品のなかから楽譜を見つけた。調査に協力した服部の孫・服部朋子さんが発見に至った経緯を振り返る。
「良一は自分が作った曲にナンバリングして、楽譜は一曲ごとに丁寧に封筒に入れて保管していました。そうした遺品は服部家の資料庫に眠っていますが、封筒だけで3000袋もあるので、特定の『ブギ』関連の曲を見つけるのは至難の業なんです。ナンバリングされているとはいえ、データで管理されているわけでもないだけに、探すのはずいぶん根気がいる作業で、見つかったときは本当にうれしかったですね」(朋子さん)
『東京ブギウギ』(1947年発売)の前年に作曲された『神戸ブギ』は服部が手がけたブギのなかでも最初期の一曲で、レコーディングされなかった理由はわかっていない。楽譜が入っていた封筒には作曲者として服部良一、作詞には彼のペンネームである「村雨まさを」、そして歌い手として笠置の名前が記されている。当時の流行歌に寄せつつ、ブギの特徴的なリズムも入っており、歌詞には港町の情景が描かれているという。
「『東京ブギウギ』が大ヒットしたことをきっかけに、あちこちで“ウチでも作って”という声が上がり、良一は日本を元気にしようとたくさんのブギを作ったのだと思います。私自身、小さい頃からブギを聴いて育ったので子守唄のように完全に自分のなかに入っていて、カラオケの十八番は『買物ブギ』です(笑い)。いま新たに自分の曲が発掘されて多くの人に聴いてもらうことができて、本人としても喜んでいることでしょうね」(朋子さん)