食品添加物の危険性はいまや周知の事実。食品表示に気を配ることは当たり前のことになりつつある。しかし、そこに"記されていない"添加物が知らず知らずのうちに、体を蝕んでいるかもしれない―
目次
監修・取材
・消費者問題研究所代表 食品表示アドバイザー 垣田達哉さん
・食品ジャーナリスト 郡司和夫さん
「添加物」の基準は曖昧。表示にすべてが書かれているわけではない
今年2月、アメリカ・シカゴ大学は「加工食品に含まれる食品添加物が腸内の善玉菌に影響を及ぼし、腸内環境を悪化させる恐れがある」と発表した。昨年7月にWHO傘下の国際がん研究機関が「人工甘味料・アスパルテームには発がん性の可能性がある」と指摘し、10月にはカリフォルニア州が「赤色3号」「臭素酸カリウム」など4つの食品添加物について健康を害する恐れがあるとして使用を禁止する法案に署名するなど、食品添加物がもたらすリスクについて国際的に懸念が高まっている。
現在日本では831品目の食品添加物が認められ生活に浸透しているが、添加物不使用や無添加、オーガニックをうたうメーカーの商品を選んだり、スーパーやコンビニでは食品表示をしっかり見たうえで購入するなど、危機意識を持ちながら買い物をしているという人は少なくない。
しかし、それだけでは、食品添加物から逃れることは難しいのが実情だ。消費者問題研究所代表で食品表示アドバイザーの垣田達哉さんは、「表示にすべてが書かれているわけではない」と一刀両断する。
「添加物とそうでないものの区分け基準は極めて曖昧で、実は“添加物とは何か”という定義さえはっきりしていません。表示法についても非常に複雑で、実際にどれほどの添加物や物質が含まれているかはわからないのです」
そんな世の中にあふれる、目に見えない「ステルス添加物」についてまず挙げられるのは、「原材料の製造・加工で使用されたもので、食品の製造には使用されない場合」だ。
具体例を見てみよう。例えば「しょうゆ」として店頭で売られている商品には、パッケージの裏に原料とともに添加物名が記されている。しかし、そのしょうゆを使ったせんべいや煮物などの食品については、「しょうゆに使用された添加物」は記されない。つまり、いくら加工食品を選ぶ際に表示をしっかり見ても、本当は使用されているのに表示されていない添加物を体に入れてしまう可能性があるのだ。
ステルス添加物の数は食品表示の何倍?「キャリーオーバー」とは?
食品ジャーナリストの郡司和夫さんが言う。
「数で言えば、食品表示の10倍は使われていると思っていいでしょう。おでんの練り製品などは原材料のほとんどがスケトウダラですが、船の上で加工する際、保存をよくするために甘味料のソルビットや、品質改良剤のリン酸塩などの添加物を使っています。しかしこれはあくまで原材料に使用した添加物であり、“ちくわやはんぺんに使用されたものではない”という考え方から練り物の食品表示には書かれない。これは食品表示法の『キャリーオーバー』に該当するとして表示が免除されていることによります」
キャリーオーバーとは食品表示法で、「原材料の加工の際に使用されるが、次にその原材料を用いて製造される食品には使用されず、その食品中には原材料から持ち越された添加物が効果を発揮することができる量より少ない量しか含まれていないもの」と定義されている。非常にわかりづらい表現だが、ごく簡単にいえば“微量であり、効果を発揮しないから表示しなくてもいい”ということ。だが、その実態は驚くべきものだ。
「代表例であるせんべいでは、原材料となるしょうゆに保存料の安息香酸やアルコールが使用されていても、キャリーオーバーとして表示が免除されます。パンに使用されているマーガリンの酸化防止剤や乳化剤も同じ。おにぎりの塩飯には一般的に調味酢や食塩、植物油脂が使用されていますが、そこに含まれる可能性がある酸化防止剤やシリコーン、酸味料などの添加物も表示しなくていいことになっています」(垣田さん)
さらに郡司さんは、キャリーオーバーのさらなるカラクリをこう指摘する。
「添加物は元来、水に溶けにくいのですが、実際には水に溶かして使う例がほとんど。その際に、水になじませるために使うのがプロピレングリコール(PG)という添加物で、製造量から判断すると日本でいちばん使用量が多い添加物です。PGは有害性が指摘されていますが、もし危険な添加物だったとしてもキャリーオーバーに該当すれば表示されることはなく、消費者の目には留まりません」
表示義務がなく抜け道になっている「加工助剤」「影響強化剤」
“抜け道”になっているのはキャリーオーバーだけではない。加工の際に使用されるが、最終的に食品に残っていない添加物「加工助剤」や、栄養強化の目的で使用される「栄養強化剤」も「表示を省略できる食品添加物」に含まれており、すなわちステルス添加物といえる。
「加工助剤は最終的に除去されるもののほか、その食品中に通常含まれる成分と同じ成分に変化するものや、食品中に含まれる量が少ないものがあります。例えば、豆腐を作る際に大豆汁の泡を消す目的で添加するシリコーン樹脂はわずかなレベルでしか存在しないという理由で表示が免除される。ビタミンやミネラル、アミノ酸などを栄養補助を目的として使う場合にも表示義務がありません」(垣田さん)
発がん性が問題になった成分は?「一括表示」という大きな問題
大手パンメーカーが使用していた「臭素酸カリウム」への注意を促すのは郡司さんだ。
「発がん性が問題になったため、業界全体で一時使用を自粛していましたがまた復活し、いまは使っているパンが出回っている可能性があります。しかも、“完成前に分解される”加工助剤として、表示義務はない。明らかなステルス添加物です」
垣田さんは「一括表示」という表示法もまた、ステルス添加物の温床になっていると続ける。
「イーストフード、かんすい、香料、調味料などの食品添加物は、“個々の成分すべてを表示する必要性が低い”として、すべての物質名を記さなくていいことになっている。つまり『香料』や『調味料』はグループ名みたいなもの。そこに何が含まれているのかはわかりません。インスタント食品や食肉などに使われるリン酸塩も健康被害が懸念されていますが、pH調整剤として表記されてしまう。使われている添加物が不透明であることは、非常に大きな問題だと思います」
「無添加」や「化学調味料不使用」にもステルス添加物の罠がある
2022年3月、消費者庁は食品添加物における「不使用」表示のガイドラインを公表した。詳細に触れない安易な「無添加表示」や、食品表示基準に規定されていない「人工・合成・化学・天然」などの用語を用いた表示について注意を促すもので、表示の厳格化はいいことのように思えるが、郡司さんの見方は逆だ。
「“無添加”や“合成着色料不使用”などをうたうメーカーは、消費者にプラスのイメージを与えることができます。しかし一方で、それは添加物を使っている事業者にとってはマイナスになる。消費者目線ではなく、添加物を使う多くの事業者のために“事業者目線”でつくられたガイドラインでしかないと思います」(郡司さん・以下同)
ガイドライン制定を受けて、商品パッケージにこそ「無添加」や「化学調味料不使用」と書かないものの、企業ホームページや広告などでアピールするメーカーは少なくない。しかし、そこにもステルス添加物の罠がある。
「その一例が、酵母エキス。エキス類は添加物じゃないから安全だと思っている人が多いようで、実際にアミノ酸など添加物であるうま味調味料ではありませんが、エキスは調味料を白い粉にする前段階の原料ですから、実際には添加物と同じです。練り物やパン、麺などに使用される植物性たんぱくも挙げられます。大豆に圧力をかける圧搾法で油を搾り取った残りカスですが、抽出に使われるのがノルマルヘキサンという石油系の化学物質。これは発がん性があると指摘され、食品衛生法上は“残留してはいけない”と決められていますが、厳密に調べれば使用したものがまったく残留していないことはあり得ない」
欧州では使用禁止になっている成分も。「加工でん粉」に注意
同様のケースとして、垣田さんは「たんぱく加水分解物」を名指しする。
「たんぱく加水分解物は塩酸分解法で作られていて、“分解”されているので添加物には規定されませんが、化学的に作られている点は同じ。しかも、その工程においてクロロプロパノールという発がん性物質が生成されるのが大きな問題です。インスタントラーメンから総菜パンまで幅広く使用されている。“実質的には添加物”という意味合いでは、堂々たるステルス添加物といえます」(垣田さん)
食品表示に記載されていても、実はステルス添加物という驚きのパターンもある。郡司さんは表示があったら避けるべきものとして、「加工でん粉」を挙げる。
「でん粉というと“じゃがいもから作っているから安全”と思うかもしれませんが、加工でん粉はいもから作ったでん粉とは異なるもので、もともとは工業用ののりです。さらに、一口に加工でん粉といっても、全部で11種類あり、そのうち『ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン』と『リン酸架橋デンプン』は発がん性があるとして欧州食品科学委員会で使用禁止になっています。しかし、日本ではすべて“加工でん粉”として表示されるので消費者はどれが使われているのかわかりません」
買い物の際に見比べるポイント。添加物の前に書かれている記号は?
添加物を避ける方法として、垣田さんと郡司さんが口を揃えるのは「安全な農産物を、自分の手で調理する」こと。しかし、ほとんどのしょうゆや砂糖に添加物が使用されているなか、完璧に実践するのは困難だ。
これまで見てきたように食品表示は“穴だらけ”だが、それでも垣田さんは「やはり食品表示を見るのは大切です」と念を押す。
「WHOは2023年5月に、砂糖不使用やノンカロリーなどをうたった人工甘味料にダイエット効果はなく、2型糖尿病や血管系疾患のリスクが上昇するとの勧告を出しました。発がん性の懸念もある人工甘味料、カラメル色素、発色剤が記されているものは、選ばないようにしましょう」(垣田さん)
郡司さんも重ねる。
「発色剤では、ハムやソーセージ、明太子などに使われる亜硝酸塩に注意。体内のアミン類と一緒になるとニトロソ化合物という強力な発がん物質ができることがわかっています。なぜ使用禁止にならないのか不思議なほど危険です。また、保存料として使用されるナイシンにも注意が必要です。主成分は抗生物質で摂取しすぎると耐性菌ができてしまい、抗生物質の薬が効かなくなってしまう可能性があります」
スーパーやコンビニで買い物をする際に実践したいのが、複数の製品の表示を「比較する」ことだ。「食品表示ではスラッシュ(/)の後に書かれているのが添加物なので、同じ商品でもメーカーによってどれほどの違いがあるかスラッシュ後の表示を見比べるくせをつけるといいですね」(垣田さん)
賢い消費者でいることは、自分や家族の健康を守ることにもつながる。“ステルス添加物”によって知らず知らずのうちに体を蝕まれてしまわないよう、より一層の注意を払いたい。
※女性セブン2024年3月21日号