働くシングルマザーのヒロイン・スズ子(趣里、33)に寄り添う割烹着の老女──。NHKの朝ドラ『ブギウギ』で、熟練のオーラが漂う家政婦・大野を演じるのは木野花(76)だ。ベテラン芸能記者が語る。
「『あまちゃん』(2013年)で“メガネ会計ババア”を好演した木野が、朝ドラ4作目の今回は家政婦役で再注目されています。
芸歴50年超の演劇界の重鎮ですが、木野といえば1980年代半ばにCMでブレイクしたことでも知られます。“エヘン虫”でお馴染み『ヴィックスドロップ』のCMで、医師役の石坂浩二に身をよじりながら症状を話す女性患者役。さらに“亭主元気で留守がいい”のフレーズが流行語にもなった金鳥『タンスにゴン』のCMで、お茶の間に強烈なインパクトを残したのが当時30代の木野でした」
『ブギウギ』の大野には壮絶な過去があったが、大野と同じ青森出身の木野自身もいぶし銀の人生を歩んできた。
弘前大学教育学部を卒業して地元中学校の美術教師になったものの、演劇をやるために上京し、「東京演劇アンサンブル」を経て1974年には女性だけの劇団「青い鳥」を創立した。以降、役者、演出家としても活躍している。
「小劇場の女性旗手として、如月小春、渡辺えり子(現・渡辺えり)と並ぶ三羽烏として注目を浴びた木野ですが、私生活では離婚歴があり、『恋愛しちゃうと、心も体も全部そっちに夢中になっちゃうから』とあっけらかんと語っていました。
ドストエフスキーを愛読し、まだ男性中心だった社会で女性というだけで不愉快な思いをしながらも反発してきた先駆的な演劇人です。『ブギウギ』の大野を『働く女のはしりのような女性』としてシンパシーを感じているそうです」(同前)
スズ子を演じる趣里について「以前から、演劇界で『すごい子が出てきたよ』という噂があって、それが趣里さんのことだったんですが、(中略)『これまで、どこにいたの?』って(笑)そう感じるインパクトがありますね」(『ブギウギ』公式サイト)と語った木野。こんな逸話もある。
「かつて木野が劇団ではなくプロダクションに所属するタレントと初めて芝居をした際、その男性が『驚く演技』をできなかった。とってつけたような演技で何度注意しても変わらない。自分が女の演出家だからナメられてるのかと感じた木野が家から持ってきた包丁を突き付けて脅して、本気の芝居をさせた。演劇界で語り継がれる実話です」(同前)
穏やかな口調でスズ子に助言する大野さんとはちょっと違う一面も、かつてはあったようだ。
※週刊ポスト2024年3月29日号