甲子園の歴代最多勝利まで「あと1勝」に迫るのが、大阪桐蔭の西谷浩一監督(54)だ。近年の高校球界で「一強」とも言われる同校は、全国から有望中学生が越境入学で集まることで知られ、その賛否も議論となってきた。そうしたなかで西谷監督は、自身の“偉業“を目前に何を思うのか。ノンフィクションライターの柳川悠二氏がリポートする。【全3回の第1回】(文中敬称略)
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智弁和歌山の前監督である高嶋仁(77)は2月に西谷と夕食を共にした。
「監督時代、一緒に甲子園に出た時には必ず食事をしていました。西谷は酒が入っても人が変わりませんが、その酒席に明徳(義塾の馬淵史郎監督)がおったらそりゃあ大変です。『欲しかった選手を獲りやがって』と口撃が始まりますからね」
強豪校の監督ならば一度は勧誘していた選手を西谷に奪われた経験があるはずだ。馬淵の場合はここ数年、熱望した選手がことごとく大阪桐蔭に入学している。ちくりと言いたくなる気持ちがあっても不思議ではない。
「私も馬淵さんも夜(の酒量と口喧嘩)は西谷に勝っとるけど、昼間は負けてばっかり(笑)。甲子園でも近畿大会でも、私は一度も勝てなかった。野球人生の心残りです」
高嶋は春夏の甲子園で通算68勝をあげた歴代最多勝監督だ。その記録にあと1勝に迫っているのが西谷であり、センバツで2勝をあげれば西谷が単独1位となる。高嶋とて近い将来に塗り替えられることは覚悟しているものの、百戦錬磨の名将の矜恃が次の言葉に滲む。
「基本的に和歌山の軟式の子ばかりを集めて戦った68勝と、全国から素材の良い選手を集めた68勝を対等に評価してほしくはありませんね」
現在の大阪桐蔭には常に「選手を集めすぎ」の批判がつきまとう。実際、センバツに挑む20人のベンチ入りメンバーのうち、地元の大阪出身は7人だけ。宮崎の軟式野球出身でセンバツでの大ブレイクが期待される新2年生の森陽樹をはじめ、1都9県から選手が集う。硬式野球出身者の多くは“日本代表“経験者だ。