あのムショぼけ男が、漫画になって帰ってきた──。
作家・沖田臥竜氏(48才)の小説『ムショぼけ』が、主演・北村有起哉(49才)でドラマ化(朝日放送)されてから2 年半。現在も各動画配信サービスで人気を博す本作品が、次はコミック『ムショぼけ~懲役たちのレクイエム~』(秋田書店刊)になり、第1巻が3月18日に発売された。
「ムショぼけ」の“ムショ”とは、刑務所のことを指す。長い刑務所暮らしで、日常生活のリズムや常識を忘れてしまった精神状態を医学的には「拘禁反応」と呼ぶが、“事情通”の間では「ムショぼけ」と呼ばれているという。一般の人にはあまりなじみのない言葉だが、妖しげでシリアスであると同時に、どこかコミカルな響きも併せ持つ。物語の主人公・陣内宗介は、ムショぼけを抱えながら、家族や仲間たちと泣き笑いの活躍を繰り広げる。
北村は、2024年後期放送予定のNHK連続テレビ小説『おむすび』で主人公の父親役として出演が決定するなど活躍の幅を広げ、沖田氏も最新小説『ブラザーズ』(角川春樹事務所刊)がこの2月下旬に発売されるなど精力的に活動。今回、『ムショぼけ』漫画化を記念して、ドラマで主人公・陣内を演じた北村と、原作者の沖田氏が対談を行った──。
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北村:ドラマ『ムショぼけ』の地上波での初回放送から2年半が経ちましたが、「最近、動画配信サービスで見ました」という人からも、よく声をかけられます。ありがたいことです。
沖田:自分の出身地で、物語の舞台でもあり、ロケ現場としても使った兵庫県尼崎市の界隈では、『ムショぼけ』を知らない人はおらんぐらいですよ。地上波放送当時、銭湯に行くと、子供までもが「今晩は『ムショぼけ』や。はよ帰らな」ってはしゃいでいた。最近も、尼崎の飲食店で「私もドラマのオーディションを受けたんです」と女性スタッフから話しかけられたことがありましたね。
北村:反響は尼崎だけじゃなく、全国区ですよ。京都で20年以上通っていた居酒屋で、『ムショぼけ』に出演してから、初めて声をかけられたということもありました。しかも「北村さん」じゃなくて「陣内さん」って(笑)。
もちろん主演だったこともあるけれど、やっぱり反響がそれまでと違いました。見てくれた人たちの熱さが違う。ハマってくれた人の多さを実感していて、それは本当にうれしかった。
沖田:そういう話は、原作書いた自分にとって一番うれしい瞬間です。小説を書くだけで生活していくことは大変な時代ですが、そうやって自分の創ったキャラクターがドラマ化されたり、漫画化されたりして、みなさんの心に刺さっていったり、感動してもらえることがあれば、小説にこだわってきて本当によかったなと思えます。
自分にとってもドラマ『ムショぼけ』は特別な作品です。ほかのドラマや映画で監修をした経験もあるのですが、決定的に違うことがある。それは、世間では誰も知らない「ムショぼけ」を実体験しているので、その気持ちや戸惑いが理解できるのは、自分だけなんです。また、刑務所内での布団の畳み方1つにしても、ドラマのスタッフさんたちは自分に確認してくれました。そんな風に、どのシーン、どのディテールにも、自分の感覚や思いが絡んでいた。
われながら、何遍も繰り返し見られるドラマで、この作品を超えるものはなかなかできないんちゃうかなと思います。