いよいよお花見シーズンが到来。移動中はもちろん、桜を見ながらでも、読書を楽しんでみるのはいかがでしょうか。いま、おすすめの新刊を紹介します。
『方舟を燃やす』/角田光代/新潮社/1980円
1967年に鳥取で生まれ都の公務員になった柳原飛馬。敗戦後の団塊世代で白米などを避けた体にいい食事で一男一女の子育てをした専業主婦の望月不三子。二人が出会うまでと子ども食堂で出会ってからを、災害史(バブル、阪神・淡路大震災、オウム事件、東日本大震災、コロナ禍など)を背景に描く。神なき時代の現代の方舟の中で生き惑う人々。個々のリアルも圧倒的な熱量高き長編。
『経済評論家の父から息子への手紙 お金と人生と幸せについて』/山崎元/学研/1760円
経済音痴なのになぜか山崎ファンでした。お人柄が信用できるというか。なので昨年がんと余命を坦々と公表されたのはショックだった(がん保険には経済合理性がないとも)。その氏が東大の理系の学部に合格したご子息に宛てた新世代の幸福論。お金至上主義(お金が目的)に陥らず、お金は手段だと説く。氏はやはり明快なヒューマニストだった。この1月1日永眠。クヤしい。
『世界は経営でできている』岩尾俊兵/講談社現代新書/990円
読み始めてすぐ噴きだす。これ会社経営の本ではなく“人生は経営だ!”とする人文書ではないですか。物心両面にわたって誰も幸せにしない現代の奪い合いに終止符を打とうと叫ぶ(この真摯な雄叫び、好き)。結婚生活における妻や夫の致命的経営ミス、恋愛では理想の相手ではなく理想の関係を探せという経営方針の変換など、自虐も混じる文体がめっちゃ愉快。良書です。
『見果てぬ花』浅田次郎/小学館文庫/715円
機内誌連載のエッセイも5冊目。旅や食を愛で、人を想い、愛猫の失踪に動転する。朝食を取るのに最高のロケーションはヴェネツィアのホテル・ダニエリ、味で最高なのは北京の皮蛋入りお粥。羊肉しゃぶしゃぶは好きだがジンギスカンは苦手と謎の偏食もカミングアウトする。愛猫家の著者は孟母三遷ならぬ十八遷。家出した老猫・玲玲(リンリン)との奇跡の再会にはホロリ。
文/温水ゆかり
※女性セブン2024年4月4日号