「国内随一の頭脳集団」である現役の約170人の棋士の中から、注目の若手棋士4名を撮り下ろし。インタビューでは生い立ちや人柄を赤裸々に語ってくれた。
【上位10人しかいないA級の棋士】中村太地八段
「将棋は集中力や相手のことを考える力、論理的能力も育まれる。お子さんと一緒にぜひ楽しんでほしいですね」。小学6年生のときに全国小学生名人戦で準優勝し、将来はプロになりたいと思った。両親に伝えると不安な様子だったが、次第に息子の意思を尊重して応援してくれるようになった。
12才で棋士養成機関の奨励会に合格し、17才でプロデビュー。エリートコースを歩んできたが、勝負の世界で生き残るのは大変だ。「AIが出てきてから戦術的にどんどん洗練されて、棋士のレベルも上がり続けている。少しでも気を抜くとおいていかれてしまう」。息抜きに、『M-1グランプリ』やバラエティー番組を見るのが楽しみだそう。
【プロフィール】
中村太地八段/1988年6月1日生まれ。東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒。2006年4月1日プロ入り。2011年度に年間勝率1位。2017年、第65期王座戦にて初タイトル獲得。現在順位戦において最上位のA級に在籍。
【第42回将棋大賞で名局賞特別賞を受賞】都成竜馬七段
2022年に結婚を発表し、現在は一児の父。勝負師と子育ては両立できるのかを聞くと、「棋士は対局の日以外は自分でスケジュールを立てられるので、意外と育児に割ける時間が多いと思いますよ」と話す。
独身時代には、対局で負けると荒れた気持ちを酒で鎮めることも多かったという。「いまは普通に真っ直ぐ帰りますし、切り替えが早くなりました。翌朝、いつもの日常がきて、子供がいて、その中で自然と自分が正されていくような感覚がある。確かに研究時間との両立は大変だなと思うこともありますけど、対局に向かう気持ちの中で、家族の存在がプラスに働いている部分はあります。ただ、結婚してバレンタインのチョコの数は激減したので少し寂しいですね(笑い)」。
【プロフィール】
都成竜馬七段/1990年1月17日生まれ。宮崎県出身。2016年4月1日プロ入り。プロ養成機関の奨励会三段時に出場した第44回新人王戦で、史上初となる奨励会員での優勝を飾る。2014年度、第42回将棋大賞で名局賞特別賞を受賞。
【2022年度の年間勝率で藤井聡太に次ぎ2位】斎藤明日斗五段
「子供の頃、ほかの人に比べて自分に将棋の特別な才能があるとは思わなかった。普通にやっていたらプロになれなかったのを、ライバルを見つけて心に火を灯せたのが大きかった」。自発的に頑張れるタイプではないので、周囲からの刺激が必要だという。
「大天才だったら周りの人なんて関係ないと思う。でもプロになれるかどうかの当落線上にいる者には、環境が大切なんです」。棋士には師弟制度があり、同じ一門には年の近い兄弟子と弟弟子がいる。その2人はすでにタイトル戦出場を経験した。「彼らに出会っていなかったら、いまの自分はなかったかもしれない。先を行かれて、その悔しさがバネになった」。ライバル心を糧に飛躍を誓う。
【プロフィール】
斎藤明日斗五段/1998年7月17日生まれ。神奈川県出身。2017年10月1日プロ入り。小学生時代にはサッカークラブに所属していたが、けがを機に将棋のプロを目指す。2022年度、年間勝率で藤井聡太に次いで全棋士中2位を記録した。
【デビュー直後に高勝率を記録したホープ】徳田拳士四段
プロデビューまで時間がかかったのは、釣りやスキューバダイビング、スキーと趣味に割かれた時間が大きかったかもしれない。「自分は他人に左右されるのが好きではないので、思うように生きたいというか。両親は勉強を強制することもなかったし、棋士を目指すことに反対もしませんでした。やりたいのなら、しっかりやれよ」。
棋士という職業についてはこう話す。「自分の頑張りが結果に直結するので、努力すればいい思いができるし、怠ければ全部跳ね返ってくる。理不尽なことはほとんどなく、結果は自分に起因しているから言い訳ができない。わかりやすくていいと思います」。
【プロフィール】
徳田拳士四段/1997年12月9日生まれ。山口県出身。同志社大学経済学部卒。2022年4月1日プロ入り。同年に加古川青流戦優勝、第64回王位戦挑戦者決定リーグ入り。プロ入りは遅かったが、デビュー直後から高勝率を記録した。
取材・文/野澤亘伸 写真/野澤亘伸 スタイリスト/津野真吾(impiger 中村、都成、徳田)、井田信之(斎藤) ヘアメイク/永瀬多壱(中村)、安井愛(CO.CO.RO.都成、徳田)、齋藤将志(斎藤) デザイン/國吉卓 対局写真/共同通信社
※女性セブン2024年4月4日号