ドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS系)により、「昭和」の文化にあらためて注目が集まっている。「野球は巨人、司会は巨泉」──。大橋巨泉がテレビで初めて司会を務め、その名を広く知らしめた出世作『11PM』は、お色気ネタを筆頭に、硬派な社会問題からギャンブル、超常現象まで多種多様な話題を取り上げ視聴者を釘付けにした昭和の伝説的番組だ。
「ゲストや私たちは皆、放送時間の1時間以上前からテレビ局に入っていました。ところが、巨泉さんは放送ギリギリとなる10分前にふらりと登場して、生放送の司会をきっちりこなしてしまう。その様子を見て、私も含め出演者全員が度肝を抜かれてしまうんです」
こう語るのは、1969年から1985年まで月曜イレブンを担当し、巨泉のアシスタントを務めた松岡きっこさん(77)。松岡さんは、25年続いた番組の歴代アシスタントの中で最長を誇る。
「『いやぁ、銀座が混んでいてね』なんて言い訳しながらスタジオ入りするのですが、彼からお酒の匂いがしたことは一度もありません。実は、巨泉さんは土日までにスタッフと綿密な打ち合わせをすっかり済ませていて、番組の進行がすべて頭に入った上でスタジオにやってくるんです。遅れてくるのは、彼なりのパフォーマンスでした」
どんなに些末な話題も、巨泉の話術にかかれば腹を抱えて笑ったり、前かがみになって聞き入ってしまうほどの内容に様変わりする。松岡さんは、巨泉の底知れない才能に終始、驚かされてばかりだったという。
「“天才”という言葉では片付けられません。彼は決して努力を他人に見せないタイプ。競馬の遊び方を紹介するのに巨泉さんは、データをびっしりと書き込んだノートを持ち込んでいました。それも、馬一頭につき一冊です。私がそのノートを見て絶句していると『そんなものは一度見れば覚えられる』なんて大きなことを言っていましたけど(笑)、ご自宅でしっかり覚えていたんだと思います。あの知識量と記憶力は、影の努力に裏打ちされたものです」