今年も桜の季節がやってきた。花見スポットへの移動中、場所取りの際に、読書でも楽しんでみては? いま、おすすめの新刊を紹介する。
『しんがりで寝ています』/三浦しをん/集英社/1760円
衝撃だ。著者のご母堂がリハビリで「ゴム草履を履いてきた」と言うとキョトンとされ、実物を見せると「ビーサンですね」。理屈こねます。ゴム草履は物質形態、ビーサンは使用形態。後者こそ狭義でしょうが! 等身大ピカチュウに親バカ愛を滴らせ、無手勝流を無勝手流と書く自分に赤面し、念願の月山に(ヨロヨロ)登る。盛大に笑い飛ばしてあげるのが本書への最大の敬意かも。
『トキワ荘の遺伝子 北見けんいちが語る巨匠たちの横顔』/北見けんいち、聞き書き・小田豊二、企画・長崎尚志/小学館/2420円
北見氏は23才で赤塚不二夫の助手に。師のトキワ荘時代のことは知らないが、武勇伝や美談を通じてトキワ荘の遺伝子を受け継ぐ。その立ち位置から藤子不二雄、石ノ森章太郎、ちばてつやなどとの交流のほか、歴代の編集者の素顔も語る。特に今も続く長寿漫画『釣りバカ日誌』誕生の経緯や今年84才の北見氏の戦後史も感動的。友愛関係が濃かった時代につい思いが飛んでいく。
『開業医の正体 患者、看護師、お金のすべて』/松永正訓/中公新書ラクレ/990円
医師にはミッションの違いがあるという。大学病院勤務なら研究と臨床と教育、一般病院なら外来診療と入院治療、開業医は椅子に座りっぱなしの外来患者との日々。小児外科医を経て開業医となった著者が少ない資金でも診療所を開く方法、年収、患者との相性、“練れてきた今”を率直に書く。「分からないと言う医者はいい医者」という名言は肝に銘じたい。人品豊かな良書です。
『飛ぶ男』/安部公房/新潮文庫/649円
世界的評価が高くノーベル文学賞も噂された安部公房(1924〜93年没/大江健三郎の同賞受賞は翌94年)。没後ワープロから発見された草稿は真知夫人の加筆などで『飛ぶ男』として出版されるが、この文庫は未加工のものを収録。空飛ぶ弟、兄で教師の保根、空気銃で弟を撃つ若い女、透明人間になるクスリと空が飛べるようになるクスリなど奇想の断片が完成形を夢見させる。
文/温水ゆかり
※女性セブン2024年4月11日号