「天職だと思える落語家を続けていられるのは、村井先生からもらった言葉のおかげです」
武蔵野美術大学卒業という落語家として異色の経歴を持つ林家たい平(59才)を、若き日に導いたのが、高校時代の恩師・村井進さんだった。
「東京藝術大学を出た27才くらいの男の先生で、高校2年、3年のクラス担任でした。若い先生だったし、恩師というよりは、“いちばん身近な大人”という感じ。だらしないところもあったし、何か質問しても『おれはわかんねえから自分で調べるか、ちゃんとした先生に聞け』なんて言われたりする(笑い)。
あんただって先生だろう、と思いながらも自力でなんとかしようと試行錯誤したことで、結果的に自立心が養われました」(たい平・以下同)
ブラックコーヒーの香りが漂う美術室や、放課後に連れられて行った画家のマスターがいる店で、先生が語る芸術論に耳を傾ける時間は、10代のたい平にとって特別なものだった。
「先生は美術教師として働きながら、画家としての成功を目指して絵を描き続けていたんです。大人になっても夢を持ち続ける姿はすごくかっこよかったし、そんな先生の姿を見ていると、人生は自分が思っているほど堅苦しいものじゃないんだ、と未来に希望が持てました」
たい平は大学進学後、偶然ラジオで聴いた落語に魅せられ、落語家の道に進んだ。村井さんからもらった言葉は、高座に上がるいまも生きている。
「高校卒業前、『ありふれた日常に感動する心を養っておきなさい』と助言をいただきました。表現者として人に感動を伝えるには、自分の中にある“感動のコップ”を常に満たしておくことが大事だというのが先生の教え。毎日のように芝居や映画を見るのは難しいけれど、何気ない曇り空や道端に咲く花に感動することができれば、いい表現が生まれるというんです。いまも落語家としてお客様の前に出て行けるのは、先生のおかげです」
【プロフィール】
林家たい平(はやしや・たいへい)/1964年埼玉県生まれ。武蔵野美術大学卒業後、林家こん平に入門。2000年に真打に昇進し、2004年からは『笑点』(日本テレビ系)にも出演中。
※女性セブン2024年4月11日号