記録づくめの初優勝だった。110年ぶりの新入幕優勝となった尊富士(24)。初土俵から所要10場所での初Vも最速記録を大幅に更新した。
序盤から星を伸ばして最後まで優勝争いをしたのは尊富士と大の里(23)の若手力士たちだった。大の里はちょんまげを結えないざんばら髪。「大尊時代」を予感させる活躍だ。
「年6場所制以降のスピード優勝は日大の先輩・輪島(元横綱)が作った所要15場所だった。輪島は幕下付け出し格でのスタート。前相撲からの尊富士のスピード記録が際立つ。輪島に続く2人目の学士横綱への期待がかかる」(相撲担当記者)
相撲王国・青森からの幕内力士は明治時代から141年間途切れておらず、次世代の力士として地元の期待を背負っての土俵だった。
「入門直後から鳥取城北高の先輩で入門を誘ってくれた横綱・照ノ富士の付け人をしたこともプラスだった。横綱から体の使い方や足の運び方のアドバイスを受ける一方で、同行する巡業先では申し合い稽古で汗を流してきた。巡業先ではトレーニングジムを見つけて通い、一般的には午前中の稽古だけだが、部屋の地下にあるトレーニングルームに一日中いることも珍しくない」(協会関係者)
ベンチプレスはMAX220キロ。盛り上がった両肩の筋肉や腹筋はトレーニングの賜物だが、やり過ぎで肩を壊したこともある。師匠や横綱から「四股とすり足をやれ」とアドバイスを受け、スピードのあるパワー相撲を身に着けた。
勢いある新スターの登場で角界の新旧交代は確実に起き始めている。
取材・文/鵜飼克郎
※週刊ポスト2024年4月12・19日号