芸能

加藤登紀子、恩師から学んだシャンソン歌手の“魂のあり方”「きれいに潔く去るのでなく、死ぬまで歌う」

加藤登紀子が語る恩師から学んだシャンソン歌手の“魂のあり方”

加藤登紀子が語る恩師から学んだシャンソン歌手の“魂のあり方”

 進むべき道を見失ったとき、未来が見えなくなったときに導いてくれるのが恩師──。

「あなたはもっとアイラインの幅を1cm以上太くしないとダメね」

 これが1965年、シャンソンコンクールに優勝した加藤登紀子(80才)が、シャンソン歌手でプロモーターの石井好子さん(享年87)から受けた最初の指導だった。

「コンクールの主催者はかわいらしいマスコットガールを望んでいたのに、地味な私が優勝しちゃったから、石井さんは頭を抱えていたようです(笑い)。メイクを変えてロングの髪をアップにし、観客から魅力的に見える舞台での歩き方や呼吸法まで手取り足取り教わりました」(加藤・以下同)

 シャンソン歌手としての指南は見た目や所作に留まらなかった。

「いちばん強く影響を受けたのは、魂のあり方です。石井さんは『私はシャンソン歌手だから』と言って、薬害のデモ隊に加わっていたそうです。シャンソン歌手は社会的に行動するという理念が彼女を突き動かしていたし、学生運動をしていた活動家の藤本敏夫と私の交際を知ったときも彼女は微動だにしませんでした」

 売れっ子歌手でありながら藤本氏と獄中結婚し、その後出産をしたときも、石井さんは常に加藤の味方だった。

「結婚するときも、出産後の活動休止を決めたときも、『何も心配しないでいいから、私に任せて』と背中を押してくれ、その後の歌手活動についても『あなたが自由であることが大事』と寄り添ってくれた。

 大正生まれで戦争をくぐり抜けた石井さんは肝っ玉が据わり、“女はすごい”と思わせてくれる女性でした。歌手としてもひとりの女性としても幸せに生きてくることができたのは、政治的な風当たりが強い中で石井さんが私をとことん守ってくれたからです」

 身軽に、自由に旅する楽しさも共有した。加藤がマネジャーをつけずひとりで中東からヨーロッパを回ったとき、パリで石井さんが待ち構えていたという。

「2人で一晩中あちこち回って、忘れられない旅行になりました。シャンソンは理想や夢だけでなく、人間の愚かさやもろさを含めて、たとえ年をとって無様になっても生き抜く姿を歌います。晩年の石井さんも入院して銀髪になってもひとりで歩いてステージに立ち、とても素敵でした。シャンソン歌手はきれいに潔く去るのではなく、死ぬまで歌うのだということを、最後に身をもって教えてくださったのだと思います」

【プロフィール】
加藤登紀子(かとう・ときこ)/1943年中国ハルビン市生まれ。1965年「第2回日本アマチュアシャンソンコンクール」で優勝し、デビュー。『百万本のバラ』などヒット曲多数。5月12日「よこすか芸術劇場」など『百万本のバラコンサート2024』全国ツアー開催中。

※女性セブン2024年4月11日号

関連記事

トピックス

ロシアのプーチン大統領と面会した安倍昭恵夫人(時事通信/EPA=時事)
プーチンと面会で話題の安倍昭恵夫人 トー横キッズから「小池百合子」に間違われていた!
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問される佳子さま(2025年6月4日、撮影/JMPA)
《ブラジルへ公式訪問》佳子さま、ギリシャ訪問でもお召しになったコーラルピンクのスーツで出発 “お気に入り”はすっきり見せるフェミニンな一着
NEWSポストセブン
「日本人ポップスターとの子供がいる」との報道もあったイーロン・マスク氏(時事通信フォト)
イーロン・マスク氏に「日本人ポップスターとの子供がいる」報道も相手が公表しない理由 “口止め料”として「巨額の養育費が支払われている」との情報も
週刊ポスト
中居の女性トラブルで窮地に追いやられているフジテレビ(右・時事通信フォト)
《会社の暗部が暴露される…》フジテレビが恐れる処分された編成幹部B氏の“暴走” 「法廷での言葉」にも懸念
NEWSポストセブン
渡邊渚さんが性暴力問題について思いの丈を綴った(撮影/西條彰仁)
《渡邊渚さん独占手記》性暴力問題について思いの丈を綴る「被害者は永遠に救われることのない地獄を彷徨い続ける」
週刊ポスト
母・佳代さんと小室圭さん
《眞子さん出産》“一卵性母子”と呼ばれた小室圭さんの母・佳代さんが「初孫を抱く日」 知人は「ふたりは一定の距離を保って接している」
NEWSポストセブン
長嶋茂雄さんとの初対戦の思い出なども振り返る
江夏豊氏が語る長嶋茂雄さんへの思い 1975年オフに持ち上がった巨人へのトレード話に「“たられば”はないが、ミスターと同じチームで野球をやってみたかった」
週刊ポスト
元タクシー運転手の田中敏志容疑者が性的暴行などで逮捕された(右の写真はイメージです)
《泥酔女性客に睡眠薬飲ませ性的暴行か》警視庁逮捕の元タクシー運転手のドラレコに残っていた“明らかに不審な映像”、手口は「『気分が悪そうだね』と水と錠剤を飲ませた」
NEWSポストセブン
金田氏と長嶋氏
《追悼・長嶋茂雄さん》400勝投手・カネやんが明かしていた秘話「一緒に雀卓を囲んだが、あいつはルールを知らなかったんじゃないか…」「初対決は4連続三振じゃなくて5連続三振」
NEWSポストセブン
違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
《レーサム創業者が“薬物付け性パーティー”で逮捕》沈黙を破った奥本美穂容疑者が〈今世終了港区BBA〉〈留置所最高〉自虐ネタでインフルエンサー化
NEWSポストセブン
《女子バレー解説席に“ロンドン五輪メダル組”の台頭》日の丸を背負った元エース・大林素子に押し寄せる世代交代の波、6年前から「二拠点生活」の現在
《女子バレー解説席に“ロンドン五輪メダル組”の台頭》日の丸を背負った元エース・大林素子に押し寄せる世代交代の波、6年前から「二拠点生活」の現在
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! ミスター長嶋茂雄は永久に!ほか
「週刊ポスト」本日発売! ミスター長嶋茂雄は永久に!ほか
NEWSポストセブン