年齢を重ねるにつれて、気持ちは若いつもりでも、体がついていかないこともあるだろう。年齢のおそろしさを知ったというのは、67才になったばかりの『女性セブン』の名物ライター“オバ記者”こと野原広子。前期高齢者3年目のオバ記者が綴る。
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67才の誕生日(3月28日)を目前にして大風邪をひいた。前号で「毎年3月は体調不良」と書いたけれど、そんなもんじゃない。体温計を脇に挟むと、36度2分前後。試しに体温計を舌の裏に差し込んでみたら、な、なんと7度8分。ちょーっとお! 布団を跳ねのけて起き上がってもう一度計ってみたら、ぎゃーっ、38度だって!!
ヤバい。これはただごとではない。とりあえず市販の風邪薬をのんで、うつらうつらしながら朝を待って、かかりつけ医に電話で症状を話すと、「熱があるなら午後5時過ぎにいらしてください」とのこと。まぁ、夕方までの時間がやけに長かったこと。
で、話は3月8日にさかのぼる。
わが故郷、茨城県桜川市の「まかべホール」で、私の2回目の講演会を開催していただいたのよ。講演のテーマは「今思う、93歳の母親を帰省介護した幸せと 出口のない介護で共倒れにならないために」。
こういうことを言うと「オカルトおばさん?」と思われそうだけど、実は講演会の前日は、2年前に亡くなった母親(享年93)の命日なんだよね。もちろん偶然で、最初に桜川市役所からお話をいただいたときは3月半ばの開催予定だったのよ。それが先方の都合で日にちが動いた。てか、私が「命日の翌日?」と気づいたのはそのしばらく後で、月命日にお墓参りをする習慣がないわが家では、命日をみんな忘れている。
そんなわけで、講演会では、最期まで私にシモの世話をさせた婆さんの写真を見ていただきながら、そのゴウツクぶりを話してやろうとしていたわけ。そしたら講演の2日前に「当日は雪かもよ」と編集姐さんのアヤヤからLINEが入った。彼女は拙著『で、やせたの?』を企画・編集した人で、私がNHK『あさイチ』に出演したときも付き添ってくれてね。その後、プライベートでも遊びに行くようになったんだけど、2人とも典型的な晴れ女。計画を立てるときに天候のことを考えたことがない。それが「雪かも」だよ。
それだけじゃないの。その当日、わが故郷を走るJR水戸線は「倒竹のため不通。運行の見通しは立ちません」だって。もう、婆さんはあの世から竹まで倒して娘に嫌がらせするんですかい、と言いたくもなるじゃないですか。その日の朝、私がどれほど気をもんだことか。
ところが──。
開演の午後1時半に近づいたら雪も雨も止み、なんと青空まで見えてきた。楽屋には30年ぶりの旧友が来てくれたり、開演後は「オバ記者さんの大ファンで静岡から追っかけて来ました」というかたまで現れて、5か月前の1回目の講演に負けず劣らずの大盛況(本当にありがとうございました!)。
しばらく前のことだけど、私が講演をすると言ったら、「えーっ、有名になりたいんだぁ~?」と言った旧友がいたのね。あまりに意外な問いに、「てか、有名になりたくないというライターがいたら変じゃね?」と返したけれど、現実はそんな簡単じゃなくてね。ライター歴45年で人目を意識するような暮らしをしたことがない。それが、講演が終わったら人に囲まれて写真を撮るわ、サインまでするわ。「やった?」なんてはしゃぐトシじゃないのは百も承知よ。だけど、浮き足立つなっていう方がムリだって。
でね。67才という年齢がおそろしいと思うのはこの後なの。ま、早い話、アタったんだね。翌日から1週間は講演の余力でエンジンが回っているのか、撮影と原稿をこなし、プライベートではヨガをして近所の銭湯にも行っている。そういえばヨガのとき、いつもより汗をかいて外に出たら強風に吹かれてゾクッとしたけど、まぁ、ゆっくりお風呂に入って寝れば大丈夫だろう……なんてわけないって!
幸い、かかりつけ医でコロナとインフルエンザの検査をしても陰性で、「ま、疲れが出たんでしょう」との診断。口の中が高熱になったのは、そもそも脇の下で測る体温計を口の中に入れたら高く出るからなんだって。
しかしよ。疲れが出ただけで体が1週間も動かなくなるって、そっちの方が問題じゃない? もしかしてこれが老い? だとしたら、私はいま、体の動かし方を間違えているということだよね。見れば最近、私の周りで大けがをしたり、体調を崩した人はみんなそう。「このくらい大丈夫」から大事に至っている。
気持ちは若い。現役万歳。でも、前期高齢者3年目はダテじゃない。気持ちだけで体は動かないんだよ。イヤな咳をしながら、そんなことを自分に言い聞かせたのでした。
【プロフィール】
「オバ記者」こと野原広子/1957年、茨城県生まれ。空中ブランコ、富士登山など、体験取材を得意とする。
※女性セブン2024年4月11日号