4月1日から朝ドラ『虎に翼』の放送が始まった。主人公・猪爪寅子を演じているのは伊藤沙莉(29才)。その足跡と魅力について、コラムニストで放送作家の山田美保子さんが綴る。
「前向きさ、明るさを演じるなら伊藤サンしかいない」
伊藤沙莉サン主演のNHK連続テレビ小説『虎に翼』がスタートしました。
同作で伊藤サンが演じる猪爪寅子のモデルは、1940年に日本初の女性弁護士になった三淵嘉子さん(享年69)。寅子の読み方は「ともこ」ですが、あだ名は「トラコ」です。
朝ドラで法律を扱うのは、1996年度上半期の松嶋菜々子サン(50才)主演の『ひまわり』以来。
伊藤サンのヒロイン決定が発表されたのは昨年の2月22日でした。彼女の朝ドラ出演は2017年度上半期に放送された有村架純サン(31才)主演の『ひよっこ』以来、2回目。上品な言葉遣いの友人役のオーディションだったのに、別の撮影でヤンキーの役をやっていたため、金髪の“プリン”(根元の地毛の部分が黒くなっている状態)で、しかもあのハスキーボイスで“お嬢様言葉”をしゃべっていた伊藤サンを面白がって、審査員席に座っていらした脚本家の岡田惠和さん(65才)が「米子」役を彼女に当てたというのは有名なエピソードです。
でも伊藤サンにとって朝ドラはコンプレックスだったそうです。「なんで(オーディションを)受けさせられているんだ。ヒロインタイプじゃないのに……という気持ちでソワソワしながら受けていた」と。
『ひよっこ』の「米子」は視聴者の皆さんの“愛されキャラ”になったのにもかかわらず、伊藤サンは朝ドラのヒロインオーディションを張り切って受け続けていたというワケではなかったそうです。
果たして、今回の『虎に翼』は、オーディションではなく、主役としてのオファー。制作統括の尾崎裕和チーフプロデューサーは伊藤サンが主演を務めたドラマ『ももさんと7人のパパゲーノ』(NHK、2022年)での演技が印象に残っていたそうで、とても繊細な作品を「前向きでポジティブに明るく演じていただける」「前向きさ、明るさを演じるなら伊藤サンしかいないと思った」と絶賛。
モデルの三淵嘉子さんは法曹界にもファンが多く、「いままでなんで朝ドラで描かれなかったんだろうと思ったぐらい魅力的」なかただとか。1話の“お見合い3連発”や下宿人を含む猪爪ファミリーとのやりとりを見て、伊藤サンにはピッタリだと思いました。
常に正直で人々を納得させられる術を持っている
伊藤サンは朝ドラ出演について「諦めなければ意外と叶う」と言い、「そこに立つことに何ら違和感ない。あなたはできるのに」と励ましてくれるマネジャーさんたちに巡り合えたことを喜んでいらっしゃいました。
つまり、伊藤沙莉という女優さんは、現場で好かれ、現場で見いだされていまに至った人。これまで何度も書いてきましたが、伊藤サンが11才のとき、天海祐希サン(56才)主演のドラマ『女王の教室』(日本テレビ系)に出演した際、天海サンから前室に呼ばれ、叱られるのかと思ったら、「あなたはカメラが自分に向いていないときでも必ずしっかりお芝居している」「その姿を必ず見ている人がいるから、手を抜いたり気を抜いたりせず、ずっとそのままでいてね」と言われたことは有名ですよね。