失言から職を辞する人は何人もいたが、独りよがりで唐突な印象を残したという意味では、のちのちまで語り継がれそうな川勝平太・静岡県知事。人々の生活と社会の変化を記録する作家の日野百草氏が、川勝知事が辞職するに至った失言から垣間見える差別と意識について考察する。
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「職業差別と同時に、これは人間差別だよね。職業に貴せんはないけど、人間に貴せんはある、川勝さんのこれまでの言葉、行為を見ると、そう考えている人だとこちらも思わせてもらうしかないよね。だからみんな、怒ったんだ」
筆者の尊敬する恩師、70代の元大学教員が電話口で語ってくれた。事前に4月1日からの10日間の発言と経緯の書き出しをメールで送ったが、彼の口から出たのは職業差別ではなく「人間差別」だった。
「これは根深い問題でね、職業そのものを差別する人って少ないと思うんだ。興味ない、も含めて。その先にある「人間」を差別してるんだね。人間を差別するからその人間の仕事も差別する、どっちが先かの話なんだけど、川勝さんはそういう人だと思われても仕方がない」
川勝さんとは川勝平太静岡県知事(1948年生まれ、75歳)のこと。選挙公報および静岡県公式プロフィール「ようこそ知事室へ」(当時)によれば、大阪府生まれの京都市出身で洛星高校から早稲田大学、同大院を経てオックスフォード大学に渡り、1985年に博士号を得ている。同大教授を務めたあと静岡文化芸術大学の学長となり、2009年に鳩山由紀夫の民主党、福島瑞穂の社会民主党、亀井静香の国民新党(いわゆるのちの民社国連立政権)の推薦で静岡県知事に当選した。
以来、4期15年に渡り静岡県の知事を務めてきた。長い、実に長い。すでに民主党はなく、政権もとうに崩壊、政党で「国民」と言えば国民民主党のことを指す令和の世にあっても静岡県は4期、川勝知事を選んできた。その間の「リニア問題」は川勝県政の最重要課題として賛否ある中、取り組んできた。
しかしその4期15年に渡る川勝県政も、4月1日のこの発言からわずか10日で崩壊となった。
むしろメディアは忖度してきた
崩壊の発端はこの発言であった。
〈県庁というのは、別の言葉で言うとシンクタンクです。毎日毎日野菜を売ったり、あるいは、牛の世話をしたりとか、あるいは、物を作ったりということと違ってですね、基本的に、皆様方は頭脳、知性の高い人たちです〉