東京大学客員研究員で医師の柳澤綾子さんは15年以上臨床現場の最前線に立ちながら、大学等でも研究し、海外医学専門誌(査読付)に論文を投稿。エビデンスに基づいた最新の医療、教育、子育てに関する有益な情報を発信している。
柳澤さんが子どもの幸福感を高めるために重要だと指摘するのが「自分で決められる子になる」ということ。そのためには、いくつかの要素が必要になりますが、今回お伝えしたいのは、親が子どもにつく悪気のない小さな嘘の怖さ。柳澤さんがエビデンスに基づいて厳選した世界の最新研究の中から、現時点で最も確かな親の関わり方を1冊にまとめた『自分で決められる子になる育て方ベスト』(サンマーク出版)より、一部抜粋、再構成してお届けします。【全3回の第3回。第1回から読む】
悪気のない小さな噓が子どもの将来を危うくする
「子どもの小学校入学を機に、スーパーでパート勤務を始めました。子どもが嫌がらないように『大丈夫、すぐ帰ってくるね』と言ってから出勤していたのですが、最近は『どうせなかなか帰ってこないくせに』とボソッと返されるようになってしまいました」
これ、本当によくあるケースだと思います。無意識のうちに「泣かれたくないな」「急いでいるからゆっくり説明できないな」と思って、つい小さな噓をついてしまった経験はないでしょうか。
「大丈夫だよ、先生上手だから注射痛くないよー」
「今日はお菓子屋さんお休みなんだってー。お店やってないから買えないよ」
「日曜日になったら連れてってあげるねー」
こんなふうに声をかけたことはありませんか? 親からすれば、悪意のない小さな噓。でも、子どもにとっては噓をつく理由や大小、悪意の有無などは関係ありません。どんな噓でも、「ママが噓ついた」「パパに騙された」と感じてしまうのです。
小さな噓は、子どもの将来に大きな影響を及ぼす可能性があると、近年の研究からわかってきています。
2019年に発表されたシンガポールの南洋理工大学の心理学部准教授のペイペイ・セトー博士らの研究によると、先ほど述べたような小さな噓を例に挙げ、被験者に「親に噓をつかれたことがあるかどうか」と尋ねました。その上で「自分が親に噓をついたことがあるかどうか」も尋ねたのです。
その結果、子どもの頃に親に多く噓をつかれていた人ほど、親に対して噓をつく傾向が高いと示唆されました。
さらに、攻撃的だったり、規則を破りやすかったりするなど、社会的に好ましくない問題を抱えるリスクが高まる傾向も見られました。親が「このくらいなんともない」と思っている小さな噓でも、子どもの将来に大きな影響を与えかねないのです。