春爛漫。うららかな日差しに誘われて、ふとどこかに出かけたくなる季節。外に出て読書を楽しむのもいいのでは? この季節におすすめの新刊を紹介する。
『老いてお茶を習う』/群ようこ/KADOKAWA/1870円
20年以上前に“退職後はお茶の先生ができればいいな”と言っていた2歳年上の編集者。「そうなったら、私もお弟子になる」と著者は即答、時満ちて有言実行したエッセイである。華道、武道など“道”と名の付くジャンルにはとんと縁がなく、過去イチでハードルの高い群ようこ本だったが、帛紗の四方捌きなど、あだおろそかにできない“道”の厳粛さに居住まいを正した。
『こまどりたちが歌うなら』/寺地はるな/集英社/1870円
ハトコで若社長の吉成伸吾に請われ吉成製菓に転職した27歳の茉子。社員35名の会社にはベテラン・パートの亀田さん、態度のでかい営業の江島や若手の正置などがいて、看板商品「こまどりのうた」や季節の生菓子を売る店舗には、幼馴染みや有名企業に勤めていた千葉さんも。会社の古い父権体質に異議を唱えつつ、働くことの意味と意義を見つめ直した柔らかなお仕事小説。
『定点写真で見る 東京今昔』/鷹野晃/光文社新書/1870円
表紙は関東大震災(1923年)後の銀座4丁目交差点と100年後の同地点。古写真の撮影地点を特定し、同じ場所から現在を撮影することによって浮かび上がる幕末→帝都→首都の変貌史だ。銀座の柳や新橋停車場、のどかな釣り場だった高輪、不忍池に浮かぶ人工島など、時代小説で読んだ風景が蘇る。圧倒的に過去に惹かれる自分に気づいてギョッとしたりも。これお宝本です。
『あなたが殺したのは誰』/まさきとしか/小学館文庫/990円
母親への暴行と幼女連れ去り事件の現在。バブルが弾けた1990年代の過去。2時制を往復しつつ因果の合流までを描く。現在は写真記憶の能力を持つ本庁の三ツ矢刑事と彼のお守り役を務める所轄の田所刑事のキャラで、過去はリゾート開発に夢を託した北海道鐘尻島の島民達の群像小説として読ませる。ミステリと社会小説を融合させたディケンズみたいな読み心地を堪能する。
文/温水ゆかり
※女性セブン2024年4月25日号