朝鮮戦争(1950~53年)で戦った北朝鮮の元兵士のために、金正恩朝鮮労働党総書記が2015年、全土の9道(日本の県に相当)に建設させた特別老人ホームのほとんどが、いまや特権階級の富裕層の保養施設になっていることが明らかになった。
各道の予算が乏しく、ホームを維持できないため、施設を貸し出して運営資金を稼ぐための苦肉の策というが、その一方で、多くの元兵士は仮の住宅に移り住まざるを得ず、住民の間からは「何のための施設なのか」との道政府の対応を疑問視する声が出ているという。米政府系報道機関「ラヂオ・フリー・アジア(RFA)」が報じた。
これらの特別老人ホームはプールやレストラン、ところによっては温泉を備え、医療施設も充実した施設となっている。もともとは「金総書記がかなり少なくなった高齢の退役軍人を優遇するため」に建設を命じたものだという。
しかし、当初は中央政府が維持費を負担していたが、財政難からその運営主体が地元政府になったものの、こちらも資金難で立ち行かなくなったことから、一般市民に開放するかわりに利用料などを徴収することになった。
ホームに滞在するには部屋だけで1泊数十万ウォン(1ウォン=0.1685円)、さまざまな設備を利用する場合は10万ウォン以上かかるとこともあるいう。
現在、特別老人ホームには退役軍人の姿は見られず、施設を運営する道の職員とごく少数の裕福な党幹部やその一族だけが、豪華な施設を利用している。もともとのホームの居住者だった元兵士は老人ホームにとどまる経費を工面できず、寝具や家具だけを置いている粗末な仮の住宅に移らざるを得なかったという。
北朝鮮メディアは折に触れて退役軍人を「英雄」として讃えているが、すでに見捨てられた存在になっているようだ。