イランが4月14日未明にイスラエル本土への攻撃に踏み切った。これまでイスラム組織のハマスやヒズボラなどを支援するに留まってきたイランだが、直接攻撃によって国家間戦争の引き金となり、第五次中東戦争にエスカレートする懸念が膨らんでいる。
「4月1日にあったシリアのイラン大使館領事部への攻撃に対する報復とイラン側が主張したのに対し、イスラエルは戦時内閣が『明確かつ強力な反撃』を行なうと決めるなど、緊張感が高まっています」(外信部デスク)
4月19日には、イランのイスファハン州にある軍事施設付近で爆発音があった。イスラエルによるイラン領内への攻撃とみられている。
注目されるのは、イスラエルの後ろ盾である米国の動向だ。11月の大統領選で共和党候補となるトランプ前大統領の“もしトラ(もしトランプが大統領に返り咲いたら)”リスクが危惧される。
アメリカ現代政治が専門の上智大学総合グローバル学部教授・前嶋和弘氏が解説する。
「トランプ氏の中東政策はイスラエル重視です。前任期中は正統派ユダヤ教徒である娘婿のクシュナー氏を中東担当に置いて露骨に肩入れしてきた。再登板すれば“友の敵”イランの封じ込めに注力するはずです。
2020年にはイスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)など一部のアラブの国の国交を結ばせる『アブラハム合意』を仲介しましたが、今後はサウジアラビアまで取り込んで連合を拡げ、イランの孤立を狙う。併せて経済制裁を強化し、兵糧攻めで弱体化させようとするでしょう」
バイデン政権下でもイランへの経済制裁は行なわれてきたが、2023年にはカタールの仲介でイランの資産60億ドルの凍結を解除したこともあった。トランプ再選で経済制裁が強化されれば、状況が変わってくる。
「イランを締め付けすぎれば報復攻撃を誘発し、米軍が出動せざるを得なくなる。孤立主義のアメリカ・ファーストを掲げるトランプ氏の本意ではないはずですが、そうなれば米軍は中東に注力し、日本に対しておもいやり予算(在日米軍の駐留費)の増額や在日米軍の撤退といった“ディール(取引)”を突きつけてくる可能性もあります」(同前)
緊迫の中東情勢は、米大統領選の結果次第で日本への影響も大きくなる。
※週刊ポスト2024年5月3・10日号