ゆったりできるゴールデンウイークこそ、読書に没頭できるチャンス。そこで、おすすめの新刊を紹介する。
『アルプス席の母』/早見和真/小学館/1870円
神奈川に住む秋山菜々子は甲子園を目指す航太郎と2人暮らし。航太郎に実力上昇中の大阪・羽曳野の高校から特待生の声がかかる。看護師はどこでもできると、菜々子は転居を決意。野球部寮の近くに住まいを借りてその成長を見守る。父母会の険のある上下関係、ブラック校則のような観戦時のルール、監督への上納金集めなど、熱血野球小説には登場しない大人の事情が面白い。
『センスの哲学』/千葉雅也/文藝春秋/1760円
ここでいうセンスとは芸術作品に宿るセンス(感覚)のこと。文学や映画や美術に大きな意味を探さず、まずはリズムを感受しようと言う。現代音楽など予測を超えるものは時に人を不安にさせるが、その誤差が享楽の本質。予測不能な複雑な高級料理を「一種の闇鍋」とする見解には笑った。その上でアンチセンスに着地する結論に大いに納得。まだAIが追いつけない人間の領域だ。
『結婚の社会学』/阪井裕一郎/ちくま新書/1100円
日本の家族観の中心に居座る結婚という制度。異性愛限定のこの結婚観を溶かせば共生の世界はもっと広がる。歴史も学べるそんな本。去る3月、札幌高裁が同性婚訴訟で下した違憲判決、4月に示された現行の夫婦同一姓が続けば500年後は全員「佐藤さん」になるという愉快な試算。本書を読みつつ未来を夢見た。ヨボったとき友情婚とか助け合い婚とか選択肢があるといいなあ。
『吉祥寺ドリーミン てくてく散歩・おずおずコロナ』/山田詠美/幻冬舎文庫/957円
料理上手の詠美さん。生もやしに熱々の塩ラーメンを注ぎ、パクチーをのせて心は東南アジアへ。そんな創意工夫も楽しいが、2024年の今、歴史が繰り返すことにも震撼する。復興五輪が新型コロナに克つ五輪にすり替わったように、大阪万博は言葉だけ能登半島復興の日本博に。都知事の学歴疑惑も再燃。数年でまたこの手品!? ナメられてますね、私達。そんな話をしたくなる。
※女性セブン2024年5月9・16日号