全米鉄鋼労組が「バイデン支持」を表明した意味
そもそも、日鉄の資本が入ることでUSスチールの技術力は向上します。設備の老朽化などが原因で競争力が低下したUSスチールにとって、雇用面でもプラスに働くことは明らかです。ただ、バイデン大統領の立場では当面は選挙対策を優先せざるをえないのも確か。そこで、ギリギリの言い回しとして出てきたのが3月の声明なのだと読み解くことができそうです。加えて、声明の6日後の3月20日、USWは「労働者層の家族の味方であると繰り返し証明した」として、バイデン支持を表明しています。USWもやはり日鉄による買収を完全否定はしていません。
ここから読み取れるのは、バイデン側とUSW側の間で、水面下で綿密に打ち合わせが行われていることです。その結果として、大統領声明とUSWの支持表明のキャッチボールが行われたのでしょう。
USWは歴史的に政界に強い発言力を保ってきた団体で、選挙の期間中に要求を釣り上げるのはよくあることです。その実、「最後は条件闘争を通じて政治的に取れるものは取ってやろう」という思惑で動いていると見たほうがわかりやすい。
そのUSWと日鉄の間の協議も始まっていますが、USW会長のマッコール氏はバイデン発言と同じ4月17日、「不誠実極まりない」と、日鉄をはねつけるような発言をしています。日鉄は、USスチールの雇用を維持すること、製鉄所への14億ドルの新規設備投資を行うこと、米国本社を南部のテキサスから東部のピッツバーグに移すことなどかなり踏み込んだ内容の提案をしています。それにもかかわらず、この強硬な態度には、違和感を抱く人もいるでしょう。
USWは一体、何を求めているのか。後編でさらに読み解いていきます。
【後編へ続く】
◆聞き手/広野真嗣(ノンフィクション作家)