日本製鉄によるUSスチールの買収計画

日鉄の計画はいかに(時事通信フォト)

トランプ氏「阻止する」発言の現実味

 プレイヤーは政府と労働組合だけではありません。鉄鋼業の最大のユーザーは自動車業界です。国内2社の高炉メーカーが合併してしまえば、モーターなどに用いられる高級鋼板の分野で競争がなくなり、価格は高止まりして品質の向上も期待できなくなる。自動車メーカーにとっても、日鉄の計画がつぶれるのは死活的な問題になる可能性がある。

 共和党の大統領候補となるトランプ氏が「阻止する」と声高に発言していることを懸念する向きもあるでしょう。しかし、トランプ氏の場合は、選挙キャンペーンの発言を実行に移すとは限りません。トランプ氏は、選挙に勝利するためにできるだけクリアカットのわかりやすい表現にこだわる。その反面、その通り実現するかどうかはあまり考慮していません。

 仮に彼が再登板する「もしトラ」が実現したとしても、それまで言っていたこととは全く違う政策を選択する可能性が十分にある。前回の政権でそのことを私たちはすでに学習したはずです。いずれにしても交渉は始まったばかり。大統領選まではそう簡単に進展はしそうにありません。

 ここまで見てきたように、政府、ライバル企業、労組、ユーザー業界などさまざまなプレイヤーが登場するこのゲームは、クールに状況分析をしつつ進められるべきものです。激しい言葉を使うプレイヤーだけにフォーカスしては戦況を見誤ります。発言を「言い過ぎた」と思わせるよう、取り巻く別のプレイヤーに働きかけていくような老獪な戦略が必要になってくるかもしれません。

【了。前編から読む】

◆聞き手/広野真嗣・ノンフィクション作家

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