市民を殺傷した4つの事件をめぐって、現在団体トップの裁判渦中にある指定暴力団・工藤會。「週刊ポスト」は同會の元幹部である伊藤明雄・受刑者(50)の獄中手記を入手した。彼が工藤會に入った経緯や過去の凶悪事件の詳細が淡々と綴られる手記には、極道の世界から退いた経緯についても、克明に書かれていた。【全3回の第3回。第1回から読む】
* * *
獄中の伊藤受刑者は、四半世紀に及ぶヤクザ生活から足を洗った経緯をこう綴る。
〈覚醒剤密売グループの主犯格として検挙され、現在北九州市の刑事施設に勾留中の身である。工藤會の方針に反した破廉恥を犯し、組の看板に泥を塗ってしまった。それにもかかわらず、私が接見禁止中に、親しい組員が足繁く差し入れに来てくれた。私は申し訳ない気持ちで一杯だった〉(伊藤氏の手記より・以下〈 〉内同)
〈私事で恥ずべき罪を犯しながら、いまだに組の温情を甘受し、ただでさえかつかつの人的資源を私が消耗させていいものなのか。こうして私は自ら責任を取る必要性を感じていたのだった〉
暴力団対策法や暴力団排除条例の整備により、ヤクザでいる限り銀行や証券の口座を持てず、あらゆる契約から排除される。
〈現在、ほとんどの場合、ヤクザとして生きていくためには結局は大なり小なり罪を犯すしか選択肢はない世の中となっている。出所して今日に至るまで、散々人にお世話になってきたが、期待に応えることができなかった。大切な思い出の品さえ、質に流してしまった。いずれ出所して、また同じ過ちを繰り返すことになるかと思うと、受けた恩義と与えた不義理の狭間で私の心は揺れた〉
たった一人の肉親である年老いた父をどう見送るかという問題にも直面し、最終的な決断に至ったと明かす。
〈今回の逮捕により、これら燻っていた環境面の諸問題が、道義的な自責の念と相まって再燃し、私に自ら脱退の選択を科す決断に至らしめた〉
工藤會を離れた伊藤受刑者は、自戒を込めて組織の暴走の原因についても分析している。
〈上層部は経験則上、自らに捜査の手は及ばないと自信を深め、結果として驕りを生んでしまったのは否めないだろう。実行犯に至っても、己の心情に反する事件にすら加担せざるを得なかったのは、工藤會が強固になればなるほど、一個人である組員が、組の命令に到底逆らうことができなくなってしまった〉
〈総裁と会長が傑出したヤクザの天才だからこそ、完全強固な工藤會が完成し、その刃は我が身にも組員にも向く羽目になってしまった〉