手嶋:そうしたなかで問題は、日本メディアの報道でしょう。イスラエルが報復としてイランの核関連施設のレーダー網を爆撃した際、この攻撃についてNHKは米国メディアの報道を引いて、イスラエルの軍関係者が「イスラエルにはイラン国内を攻撃する能力があることを伝える意図があった」とコメントしたと報じた。私は、これは変だなと感じました。
佐藤:イスラエルにイラン国内を攻撃する能力があることは自明ですから。
手嶋:そこで正確に検証してみると、イスラエルはイランの核施設の防空網を叩く能力があるとしたうえで、その能力を行使する「意志」もあると示唆する内容でした。佐藤さんはかねがね、脅威は「能力×意志」で決まると指摘されています。たとえばカナダ国民は国境を接する米国の核を脅威に感じていません。それは米国にカナダを攻撃する能力があっても、意志がないからです。その点、イスラエルは攻撃する能力だけでなく、意志も匂わせた。瀬戸際外交をやっていると思います。
佐藤:そう。イスラエルはイランに「いざとなったらやるぞ」とメッセージを出した。相当、際どいことを始めていますよ。
(後編につづく)
【プロフィール】
手嶋龍一(てしま・りゅういち)/1949年、北海道生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局長などを歴任。2005年に退職後、作家・ジャーナリストとして活動。『ウルトラ・ダラー』など著書多数。佐藤氏との共著『イスラエル戦争の嘘』が話題。
佐藤優(さとう・まさる)/1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。在露日本国大使館などを経て外務省国際情報局に勤務。現在は作家として活動。主著に『国家の罠──外務省のラスプーチンと呼ばれて』などがある。
※週刊ポスト2024年5月17・24日号