【書評】『君主制とはなんだろうか』/君塚直隆・著/ちくまプリマー新書/990円
【評者】山内昌之(富士通フューチャースタディーズ・センター特別顧問)
チャップリン映画のセリフではないが、「王様は何でえらいの?」
21世紀の現在、世界には「王様」と呼ばれる人が20人ほどいる。これにルクセンブルクなどの「大公」、アラブ首長国連邦の「首長」たちも合せると、世界には28ほどの君主国がある。著者は、ここに天皇を国民統合の象徴とする日本も含めている。
古代から現代までの世界史では、数え切れぬほどの君主国が興亡した。そのうち、現代でも何故に一部の王国が生き延びているのだろうか。著者がわかりやすく説明する理由は、とくに欧州の君主や王国が「社会的な弱者に対する救済」の拠り所になるということだ。
君主や王族は、慈善団体の長を務めることも多く、社会的に弱者にあたる人びとと日常から自然に触れあっている。役所は文字通り、「お役所仕事」しかできない。それなのに、君主たちは、「高貴なるものの責務」(ノブレス・オブリージュ)をこともなげに実践している。
なかでもイギリスはその模範的な存在である。『イギリス憲政論』(1867年)を書いたバジョットは、憲政が尊厳的部分と実効的部分から成っていると説いた。前者は民衆の尊敬心を呼び起こし、これを保持する部分であり、君主と貴族院(上院)に当たる。後者は現実の政治を動かしていく部分であり、内閣と庶民院(下院)に相当する。
君主制とは興味深い行動をする一人の人間(国王などの君主)に国民の注意を集める形態である。人びとが君主をいまでは国民道徳の指導者として考えがちなのは、かつて君主が社交界の頂点に君臨した名残りでもある。
君主を道徳の指導者として考えたというバジョットの名言は、日本でもかなりの程度あてはまるかもしれない。本書は、中国や中東・イスラムの君主や王国も事例にとりあげた平易な新書である。高校生を含めた広い読者層に歓迎される好著といえよう。
※週刊ポスト2024年5月17・24日号