瀬戸内さんは51歳で出家してからは性とは無縁だったが、恋心を持つことは大切にしていた。
《遠花火 肩寄せ見た日も ありしかな》
《返メール 待ちくたびれし くれの春》
星霜を重ねても、スマートフォンを操っていた瀬戸内さん。誰かからの返事を待ち焦がれていたのだろうか。
前述の遺句集『定命』で、元秘書の瀬尾まなほさんはこう稿を寄せた。
〈先生は仕事の合間や、ふといい俳句がうまれたときに書き残していた。めぐり巡らせ、ふっと湧き出た句をしたためる。晩年のささやかな愉しみであったことがよくわかる。そのときの想いなどを今、句を通して知ることが出来る。まるで日記、随想のようだ〉
昨年秋に三回忌を迎えた瀬戸内さん。その作品は、まだまだ多くの人の心を震わせそうだ。