ライフ

美容医療での死亡の衝撃広がる、カリフォルニアで無資格の小児科医が脂肪吸引で事故、美容外科に規制強化への動き、米国形成外科学会などが声明

脂肪吸引で事故(写真/イメージマート)

脂肪吸引で事故(写真/イメージマート)

 米国で美容医療の専門的な資格のない小児科医による脂肪吸引後に女性が死亡する事故が報道されて大きな注目を集めている。

 2024年4月に米国での規制強化を求める動きが強まっている。

28歳の女性が手術中に呼吸停止

 この3月31日にロサンゼルスタイムズが報じたが、美容医療の事故の続発が大きな注目を集めている。記事は、2020年に起きた28歳の女性の死亡事故を中心に、多発する米国での美容医療に関連した事故を紹介しながら、無資格の医師による美容医療が横行している状況を問題視するものだった。

 なお、日本では形成外科というと、ケガや先天異常などを治療する医師の意味合いが強いのに対して、米国では、形成外科という分野が美容外科を担う専門分野として一般に認識される。形成外科(Plastic surgery)イコール美容外科医と見なされる側面さえある。以下、形成外科と書くが、これは美容外科の意味も含めている。

 報道によると、米国カリフォルニア州南ロサンゼルスのクリニックで2020年、形成外科資格を持たない小児科医が、ラスベガスから受診した28歳女性の脂肪吸引を実施。腕と腹の脂肪を除去する手術を行った。女性は手術が始まってから1時間も経たないうちに呼吸が停止し、救急隊員を呼ぶ状態に。女性は4人の子どもを持つ母親だったが、回復せず数日後に病院で死亡した。

 規制当局によれば、女性が死亡する事態を招いた小児科医は、元々家庭医療に取り組んでいたが、美容サービスを始め、静脈の硬化療法、豊胸手術まで手掛けるようになっていたという。小児科医は遺族と6500ドル(日本円で約100万円)で和解したという。

 報道で強調されているのは、美容外科の基礎になる形成外科の修練を受けていない医師が、美容医療を自由に行っている状況があることだ。米国ではこのほかにも美容外科に関連した医療により死亡する人が出ているほか、美容外科に関連した苦情も多発しているという。

 日本でも美容医療を受ける医師にトレーニングが足りないという指摘があるが、米国でも美容医療に踏み込む医師が増える中、外科的訓練をほとんど受けていなかったり、全く受けていなかったりする医師が存在して問題になっている状況が浮き彫りになった。

資格を持った医師の手術を受けるよう求める

 この動きを受けて、米国の専門家団体が相次いで声明を発表している。

 米国の形成外科医師の中心的な団体である、米国形成外科学会は、これまでも美容外科手術を手掛ける医師にはABPS(American Board of Plastic Surgery)の認定を受けることを求めてきたと強調した。施術を検討する人たちにも、ABPSの資格を持つ医師から手術を受けるよう求めた。

 一方で、事故が受けて、カリフォルニア州の形成外科学会では、米国形成外科学会の認定資格を持った医師が美容外科手術を行うことが重要であることを強調。今後の法改正を求める考えを示している。

 これに続いて約2600人の形成外科医で構成されるエステティック・ソサイエティも、美容外科施術に資格を必要とするなどの規制強化を求める声明を出している。

 オーストラリアでは既に有資格者のみが美容医療を手掛けられる方向に規制強化が進んでいるが、この動きは米国でも進む可能性がある。日本でも似たような状況はあるだけに無関係ではいられないかもしれない。

参考文献

American Society of Plastic Surgeons Reinforces Importance of Physician Training and Credentials to Protect Patients

The Los Angeles Times – She died after liposuction by a pediatrician. Doctors warn of cosmetic surgery’s ‘Wild West’

オーストラリアで美容医療関連の新ルール登場、クイーンズランド州が「外科医」の称号使用を制限

【プロフィール】
星良孝/ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表、獣医師、ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

ヒフコNEWS

ヒフコNEWSは、国内外の美容医療に関する最新ニュースをお届けするサイトです。美容医療に関連するニュースを中立的な立場から提供しています。それらのニュースにはポジティブな話題もネガティブな話題もありますが、それらは必ずしも美容医療分野全体を反映しているわけではありません。当サイトの目標は、豊富な情報を提供し、個人が美容医療に関して適切な判断を下せるように支援することです。また、当サイトが美容医療の利用を勧めることはありません。

関連キーワード

トピックス

ブラジルを公式訪問している佳子さま(写真/アフロ)
佳子さま、外交関係樹立130周年のブラジルを公式訪問 子供たちと笑顔でハイタッチ、花柄のドレス姿も 
女性セブン
「寂しい見た目」の給食に批判が殺到(X /時事通信フォト)
《中国でもヤバい給食に批判殺到》ラー油かけご飯、唐揚げ1つ、「ご飯にたまご焼きだけ」と炎上した天津丼…日本・中国で相次ぐ貧相給食の背景にある“事情の違い”
NEWSポストセブン
来来亭・浜松幸店の店主が異物混入の詳細を明かした(右は来来亭公式Xより)
《“ウジ虫混入ラーメン”が物議の来来亭》店主が明かした“当日の対応”「店舗内の目視では、虫は確認できなかった」「すぐにラーメンと餃子を作り直して」
NEWSポストセブン
家出した中学生を自宅に住まわせ売春させたとして逮捕された三ノ輪勝容疑者(左はInstagramより)
《顔面タトゥーの男が中学生売春》「地元の警察でも有名だと…」自称暴力団・三ノ輪勝容疑者(33)の“意外な素顔”と近隣住民が耳にしていた「若い女性の声」
NEWSポストセブン
山本賢太アナウンサーのプロフィール。「人生は超回復」がモットー(フジテレビ公式HPより)
《後悔と恥ずかしさ》フジ山本賢太アナが過去のオンラインカジノ利用で謝罪 「うちにも”オンカジ”が…」戦々恐々とする人たち
NEWSポストセブン
親日路線を貫いた尹政権を「日本に擦り寄る屈辱外交」と断じていた李在明氏(時事通信フォト)
韓国・李在明新大統領は親中派「習近平氏の接近は時間の問題」、高まる“日本有事”リスク 日米韓による中国包囲網から韓国が抜ける最悪のケースも
週刊ポスト
田中真一さんと真美子さん(左/リコーブラックラムズ東京の公式サイトより、右/レッドウェーブ公式サイトより)
《真美子さんとの約束》大谷翔平の義兄がラグビーチームを退団していた! 過去に大怪我も現役続行にこだわる「妹との共通点」
NEWSポストセブン
異物混入が発覚した来来亭(HP/Xより)
《「来来亭」の“ウジムシ混入ラーメン”動画が物議》本部が「他の客のラーメンへの混入」に公式回答「(動画の)お客様以外からのお問い合わせはございません」
NEWSポストセブン
金スマ放送終了に伴いひとり農業生活も引退へ(常陸大宮市のX、TBS公式サイトより)
《金スマ『ひとり農業』ロケ地が耕作放棄地に…》名物ディレクター・ヘルムート氏が畑の所有者に「農地はお返しします」
NEWSポストセブン
6月9日付けで「研音」所属となった俳優・宮野真守(41)。突然の発表はファンにとっても青天の霹靂だった(時事通信フォトより)
《電撃退団の舞台裏》「2029年までスケジュールが埋まっていた」声優・宮野真守が「研音」へ“スピード移籍”した背景と、研音俳優・福士蒼汰との“ただならぬ関係”
NEWSポストセブン
小室夫妻に立ちはだかる壁(時事通信フォト)
《眞子さん第一子出産》年収4000万円の小室圭さんも“カツカツ”に? NYで待ち受ける“高額子育てコスト”「保育施設の年間平均料金は約680万円」
週刊ポスト
清原和博氏は長嶋さんの逝去の翌日、都内のビル街にいた
《長嶋茂雄さん逝去》短パン・サンダル姿、ふくらはぎには…清原和博が翌日に見せた「寂しさを湛えた表情」 “肉体改造”などの批判を庇ったミスターからの「激励の言葉」
NEWSポストセブン