大型連休が終わり、次の祝日が恋しいところだが、6月は祝日なし。7月の海の日まで耐えなくてはならない。残酷な現実に気分が沈む人も少なくないだろうが、そんな時こそ日常を忘れられる読書がうってつけだ。おすすめの新刊を紹介する。
『板上に咲く MUNAKATA:Beyond Van Gogh』/原田マハ/幻冬舎/1870円
ゴッホの〈ひまわり〉に心酔し、「日本のゴッホ」になろうとして突き抜け、「世界のムナカタ」の高みに上った青森出身の板画家・棟方志功(1903〜1975年)。彼の生涯の小説化だ。貧困にめげず、妻や子供を愛する家庭人で、柳宗悦ら民藝運動の面々に引き立てられ、海外でも高く評価された。美談ばかりなのにちょっと驚くが、きっと、そんな人物だったのだろうと思わせる。
『おひとりさまの後始末』/なとみみわ/小学館/1650円
死ぬのも大変。終活ノートに希望を書き、葬儀費用を確保しておくくらいはできるが、頭痛がするのはネット銀行、ネット証券、暗号資産、QR決済などのデジタル遺産。ログインパスワードや、生前にスマホを見られたくなかったらスペアキーを作り書いておく。サブスクも死後自動停止になるかどうかは業者次第。専門家を訪ねてポイントを分かりやすく解説。頼りになる一冊だ。
『メイド・イン京都』/藤岡陽子/朝日文庫/990円
実家の事業を継ぐ婚約者の古池和範と共に、京都に住むことになった32歳の十川美咲。由緒ある家格、話すヒマさえない和範の多忙、腹に一物ある姑や小姑などに疲れ果て、美咲は美大の同級生で、琵琶湖近くで陶芸をする仁野佳太と10年ぶりの再会を果たす。メインは“真の自立”を巡る美咲の奮闘。サブは“巡り会う恋人達”。晴れやかなハッピーエンドに思わず頬がゆるむ。
『つまらない住宅地のすべての家』/津村記久子/双葉文庫/748円
10軒の家が並ぶ住宅地に、脱獄した日置昭子(36歳)が近づいているらしい。自警団を結成する住民達。昂揚する自治会長、引きこもりの息子を隠した中年夫婦、母に放置された姉妹、学年一の成績だった日置と同級生だったサラリーマン、犯罪者予備軍の若者。家に隠されたドラマをつぶさにヒューマニスティックに描き、日置登場後の余話まで読ませる群像劇。あ〜面白かった。
※女性セブン2024年5月23日号