新生活の慌ただしさが落ち着き、気のゆるみから疲れやストレスが表れやすいこの時期。そんなときこそ読書を楽しむことで、日々の苦悩を忘れるのもいいかもしれない。新たな発見をもたらしてくれる新刊4冊を紹介する。
『女の国会』/新川帆立/幻冬舎/1980円
2023年は125位と順調にランクを落とす日本のジェンダーギャップ指数。中でも政治分野は138位と目も当てられない。本書はそんな惨状にエンタメで切り込む。「お嬢」と呼ばれた与党代議士の自死を巡り、彼女のイケメン婚約者、野党の憤慨おばさん、若き政策秘書、過労気味の女性記者などが入り乱れる。捻りのある真相はやや観念的でも選挙や政局の場面にはリアリティが。
『spring』/恩田陸/筑摩書房/1980円
題名は人名から。バレエのバの字も知らなかった8歳でバレエ教室の先生に見いだされ、15歳でドイツのバレエ学校に留学する萬春。彼が踊りや振付に天賦の才を発揮するさまを、留学同期の純など3人の視点を通して描き、最終章では春が自分自身を語る。特筆すべきは著者が創案した舞台。オーケストラの各楽器をダンサーに置き換える『ボレロ』の演出にはちょっと身震い。
『絞め殺しの樹』/河崎秋子/小学館文庫/990円
戦前戦後を忍耐強く生きたミサエの一代記にして隠された血脈の物語。根室生まれ、父母を知らず新潟で育ったミサエは、縁ある吉岡家の頼みで根室に戻る。そこで待ち受けていた牛馬以下の過酷な労働。富山の薬売り小山田のおかげでミサエは勉学に励み、札幌の薬問屋に勤め、保健師として根室に戻る。圧倒的な読み心地。直木賞受賞への架け橋となった北海道クロニクルだ。
『燕は戻ってこない』/桐野夏生/集英社文庫/1100円
憧れの東京で働くも生活に困窮する29歳のリキ(大石理紀)。お金欲しさに卵子提供に応募すると、国内では禁止の代理母出産の話を持ちかけられる。リキは1千万円の報酬で応じるが──。面談、合意、人工授精、妊娠、偽装結婚、出産まで、リキだけでなく子を望む草桶夫妻もそれぞれの局面で揺れ、心の色を変える。生殖医療が人の心に及ぼす明暗を描き、読み応えたっぷり。
文/温水ゆかり
※女性セブン2024年5月30日号