高校野球の常勝軍団にして、一時代を築いてきた大阪桐蔭に思わぬ伏兵が現れた。春季大阪大会の準々決勝で大阪桐蔭を2対1で破り、その勢いのまま優勝を遂げた大阪学院大高だ。同校は2019年夏の甲子園を制した履正社にも4回戦で勝利している。江夏豊という大投手を生んだ私立校だが、甲子園出場は1996年センバツの一度きり。日本どころか、大阪府内でもノーマークの存在だろう。なぜ快進撃を続けられたのか。昨年3月に指揮官に就任した辻盛英一監督(48)が語る。
「とにかく選手たちが頑張ってくれました。大阪から日本一を目指すからには、大阪桐蔭と履正社という二強を倒さなければならない。能力の高い選手が集まる両校に対し、うちはスカウティングではなくブランディングに注力しています。自由な髪型で、練習も自主性に任せています。要するに、わざわざ声をかけなくとも、(大阪)学院に行きたいと思ってもらえるような野球部を目指しています」
選手が私設の野球塾に通いたいと言えば、反対することもないという。もちろん、大阪桐蔭のように携帯電話の使用を禁止することもない。髪型にしても部内の上下関係にしても、いまだ旧態依然としたスタイルを貫く学校の多い大阪には異色の学校といえる。
監督の経歴もまた異色だ。大阪市立大(現大阪公立大)の経済学部を卒業後、三井住友銀行、メットライフ生命と渡り歩き、2018年に保険代理店「ライフメトリクス」を起業。日中は32名の従業員を抱える同社の代表取締役社長を務め、夕刻より球児の指導にあたっている。高校、大学時代は自身も白球を追いかけた辻盛監督だが、大阪学院の部員にはビジネスの知見を活かして向き合う。
「保険の営業マンというのは、クライアントの方の人生に踏み込むようなことも求められる。お客様のためにというのと、選手のためにという考え方、アプローチの仕方は近いように思います。大阪市立大の監督時代から、選手の意識改革をするために、ミーティングや対話は大事にしてきました。うちの選手たちは監督の顔色をうかがうことはなく、選手同士がアイコンタクトでエンドランや盗塁を決めている。一応、サインはありますけど、試合中にベンチから出したことはありません。練習中も技術指導はコーチに任せ、私はマネジメントに徹しています」
野球部には監督を支えるコーチ陣が7人いて、他に教員である部長などが活動をサポートする。辻盛監督はコーチ陣に対し、怒鳴り散らすことがないように伝えているという。
「日本で野球をやってきた人たちって、少なからず監督やコーチから叱られ、怒鳴られ、時には殴られながら野球を続けて来た。ですから、うちのコーチ陣も怒鳴らない指導に対して当初は抵抗があったようです」