ライフ

海外で問題引き起こす美容目的のセルフ注射、健康被害が多発、最も多いのはヒアルロン酸、皮膚科の医学誌でも実態報告

セルフ注射で健康被害が多発(写真/イメージマート)

セルフ注射で健康被害が多発(写真/イメージマート)

 海外で自分自身で薬剤を注射する事例が増えて問題になっている。最も多いのがヒアルロン酸で事故も起きている。

急性血管障害や急性難聴が発生

 国内外で非医療者による美容施術が問題になっている。英国では不正な製剤が押収される事態が起きているほか、米国では非医療者による施術によりHIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染が広がる事態が発生している。日本でも海外の国籍を持つ人たちが美容施術を違法に行い警察に摘発されている。このような非医療者による施術行為として、海外では自分自身で注射をする事例も問題になっている。

 2024年1月に、米国ジョージタウン大学の研究グループが「セルフ注射」の実態について皮膚科の医学誌で報告している。2022年9月までの過去の論文を分析した研究だ。これによると15の論文で18人の患者で確認された38の合併症が報告されていた。

 最も多く注入されていたのはヒアルロン酸で、76.4%だった。唇に注射している人が多かった。重篤な合併症としては、急性血管障害が11%、急性難聴が5%。治療としてはヒアルロニダーゼや抗生物質の使用が87.5%。11%では色素沈着が残った。自分で注射したことで意図しないところに薬剤が注入されてトラブルになっている状況がうかがわれる。

非外科的治療が野放図に広がる

 研究グループは訓練を受けていない人たちによる注射が、取り返しの付かない問題を引き起こる恐れがあると警告している。

 そもそも自分自身で注射するための製剤や注射器が入手できている状況が問題ともいえる。しかし、非外科的治療は手術が不要で注射だけで行えることもあり、自分で注射したり非医療者が注射したりする異常なシチュエーションでの行為につながりやすい。受ける側の事情としては、治療費を支払うのを嫌うなどの理由があると推測される。

 海外では偽造の製剤が健康被害を引き起こしている問題も起きている。米国で問題になっているのはボツリヌス療法の製剤で、これにより目のかすみや飲み込みにくさ、便秘、失禁、息切れなどが起きている。

 非外科的治療が野放図に広がっている状況には何らかのメスを入れる必要があるのかもしれない。また、海外などで非医療者が安全とはいえない美容施術を行っている状況には注意しておく必要があるだろう。

参考文献

Tripathi NV, Hakimi AA, Parsa KM, Bartholomew IY, Reilly MJ, Chu E. Complications, Treatment, and Outcomes of Self-Injecting Substances Into the Face: A Systematic Review. Dermatol Surg. 2024 Jan 1;50(1):59-61. doi: 10.1097/DSS.0000000000003977. Epub 2023 Nov 17. PMID: 38112411.

米国で偽造ボツリヌス注射による健康被害相次ぐ、目の症状、便秘や失禁など、すべて医療機関以外で施術、米国学会や政府機関が警鐘

英国政府、 大量の不正フィラー製剤を押収 非医療者による施術に懸念、英国美容医療学会が規制強化を要求 世界で発生する不正美容医療の事件

【プロフィール】
星良孝/ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表、獣医師、ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

ヒフコNEWS

ヒフコNEWSは、国内外の美容医療に関する最新ニュースをお届けするサイトです。美容医療に関連するニュースを中立的な立場から提供しています。それらのニュースにはポジティブな話題もネガティブな話題もありますが、それらは必ずしも美容医療分野全体を反映しているわけではありません。当サイトの目標は、豊富な情報を提供し、個人が美容医療に関して適切な判断を下せるように支援することです。また、当サイトが美容医療の利用を勧めることはありません。

関連キーワード

トピックス

小磯の鼻を散策された上皇ご夫妻(2025年10月。読者提供)
美智子さまの大腿骨手術を担当した医師が収賄容疑で逮捕 家のローンは返済中、子供たちは私大医学部へ進学、それでもお金に困っている様子はなく…名医の隠された素顔
女性セブン
吉野家が異物混入を認め謝罪した(時事通信、右は吉野家提供)
《吉野家で異物混入》黄ばんだ“謎の白い物体”が湯呑みに付着、店員からは「湯呑みを取り上げられて…」運営元は事実を認めて「現物残っておらず原因特定に至らない」「衛生管理の徹底を実施する」と回答
NEWSポストセブン
北朝鮮の金正恩総書記(右)の後継候補とされる娘のジュエ氏(写真/朝鮮通信=時事)
北朝鮮・金正恩氏の後継候補である娘・ジュエ氏、漢字表記「主愛」が改名されている可能性を専門家が指摘 “革命の血統”の後継者として与えられる可能性が高い文字とは
週刊ポスト
英放送局・BBCのスポーツキャスターであるエマ・ルイーズ・ジョーンズ(Instagramより)
《英・BBCキャスターの“穴のあいた恥ずかしい服”投稿》それでも「セクハラに毅然とした態度」で確固たる地位築く
NEWSポストセブン
箱わなによるクマ捕獲をためらうエリアも(時事通信フォト)
「箱わなで無差別に獲るなんて、クマの命を尊重しないやり方」北海道・知床で唱えられる“クマ保護”の主張 町によって価値観の違いも【揺れる現場ルポ】
週刊ポスト
火災発生後、室内から見たリアルな状況(FBより)
《やっと授かった乳児も犠牲に…》「“家”という名の煉獄に閉じ込められた」九死に一生を得た住民が回想する、絶望の光景【香港マンション火災】
NEWSポストセブン
11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(右/読者提供)
【足立区11人死傷】「ドーンという音で3メートル吹き飛んだ」“ブレーキ痕なき事故”の生々しい目撃談、28歳被害女性は「とても、とても親切な人だった」と同居人語る
NEWSポストセブン
「アスレジャー」の服装でディズニーワールドを訪れた女性が物議に(時事通信フォト、TikTokより)
《米・ディズニーではトラブルに》公共の場で“タイトなレギンス”を普段使いする女性に賛否…“なぜ局部の形が丸見えな服を着るのか” 米セレブを中心にトレンド化する「アスレジャー」とは
NEWSポストセブン
日本体育大学は2026年正月2日・3日に78年連続78回目の箱根駅伝を走る(写真は2025年正月の復路ゴール。撮影/黒石あみ<小学館>)
箱根駅伝「78年連続」本戦出場を決めた日体大の“黄金期”を支えた名ランナー「大塚正美伝説」〈1〉「ちくしょう」と思った8区の区間記録は15年間破られなかった
週刊ポスト
「高市答弁」に関する大新聞の報じ方に疑問の声が噴出(時事通信フォト)
《消された「認定なら武力行使も」の文字》朝日新聞が高市首相答弁報道を“しれっと修正”疑惑 日中問題の火種になっても訂正記事を出さない姿勢に疑問噴出
週刊ポスト
ラオスへの公式訪問を終えた愛子さま(2025年11月、ラオス。撮影/横田紋子)
《愛子さまがラオスを訪問》熱心なご準備の成果が発揮された、国家主席への“とっさの回答” 自然体で飾らぬ姿は現地の人々の感動を呼んだ 
女性セブン
山上徹也被告(共同通信社)
「金の無心をする時にのみ連絡」「断ると腕にしがみついて…」山上徹也被告の妹が証言した“母へのリアルな感情”と“家庭への絶望”【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン