「ひとまず最終局に持ち込めたのはよかった」。将棋の叡王戦5番勝負の第4局が5月31日に千葉県柏市で行われ、伊藤匠七段(21才)に勝利した藤井聡太八冠は安堵した様子でそうコメントした。第3局までの対戦成績は藤井の1勝2敗で、負ければ「叡王」のタイトルを失うところまで追いつめられていた。2勝2敗の五分に持ち込んで「逆王手」とした藤井だが、陥落のピンチの中で浮かない日々を過ごしていた。
将棋の八大タイトルを独占する藤井は、複数のタイトル戦を並行して戦うタイトなスケジュールだ。先の叡王戦第4局の前、5月26・27日には北海道紋別市で「名人戦」に臨み、初防衛に成功。翌28日、藤井の姿は羽田空港にあった。
「藤井さんはスーツ姿で、黒いリュックを背負い銀色のキャリーケースを引いていました。慣れた様子でひとり空港内を歩く姿はどこにでもいるビジネスマンという雰囲気でしたが、あの重めな前髪は特徴的で結構な人が彼の存在に気づいていました」(居合わせた人)
自宅のある愛知県に帰るためだったのだろうか。藤井は足早に、空港直結の駅から電車に乗り込んだという。
「勢いよく乗ってきた人がいるなと思ったら、藤井さんだったので驚きました。ほかの乗客も藤井さんに気づいていて、ヒソヒソと話す人もいました。藤井さんは席に座るなりスマホを取り出して、ずっと険しい表情で画面を見ていましたね。眉間にしわを寄せて“しかめつら”になることもありました」(目撃した乗客)
藤井は鉄道好きとして知られ、幼少期には自宅近くの踏切で祖母と1時間近く電車を眺めるのが日課だったほど。棋士として活躍するようになってからも、藤井は対局が行われる全国各地でさまざまな鉄道に乗ることを楽しみにしてきた。
電車内は勝負の世界から離れることのできる数少ない空間のはずだが、この日は崖っぷちの叡王戦第4局の直前。苦戦が続く中リフレッシュする“余裕”はなかったのかもしれない。乗車時には比較的空いていた車内は、次第に混雑して満員状態になった。するとここでハプニングが発生した。
「藤井さんの隣に座った女性が、居眠りを始めたんです。明るめの髪をポニーテールでまとめた頭がカックンカックン揺れていて、いまにも藤井さんの肩に頭を預けてしまいそうな状況でした。
それに気づいたのか、彼はスマホをそっとポケットにしまうと、冷静な目つきで一点を見つめ始めたんです。ついに女性の頭が藤井さんに当たっても、一点集中を崩さない。見ているこちらが“ドキッ”としましたが、藤井さんのメンタルの強さを見たような気がしました」(別の乗客)
電車で藤井を待っていたのは、対局とはひと味違った“緊張感”だった──。とはいえ、これくらいのハプニングにも動じないのは、さすがの八冠だ。
※女性セブン2024年6月20日号