400年という長い歌舞伎の歴史の中でも、前代未聞の事態だ。尾上菊之助(46才)が来年5月に「八代目尾上菊五郎」を襲名することが5月27日に発表された。歌舞伎界の名跡が継承されるのはいたって普通のことだが、菊之助の父で、当代の七代目尾上菊五郎(81才)も、継続して「菊五郎」を名乗るという。
「『菊五郎』は音羽屋を代表する無二の名跡です。過去に菊五郎が同時に2人存在したことも、同じ舞台に立ったこともありません。七代目は31才で襲名して以来、半世紀以上にわたって菊五郎を名乗ってきました。“菊五郎のままで歌舞伎人生をまっとうしたい”という思いが強かったのでしょう」(歌舞伎担当記者)
異例の「ダブル菊五郎」が生まれた背景には、七代目の健康問題があったようだ。
「以前から七代目は体調が優れず、歌舞伎への出演機会は限られていました。名跡を譲って別の名を名乗ったとしても、その名が浸透するほど長い期間、観客の前に立てないという予感があったようです」(歌舞伎関係者)
名実ともに音羽屋の看板役者になる菊之助は、立役、女形いずれもこなし、時代物、世話物、舞踊と取り組むジャンルも広い。加えて、『風の谷のナウシカ』や『ファイナルファンタジーX』といった新作歌舞伎を意欲的に手がけている。また、『グランメゾン東京』(2019年、TBS系)や連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(2021年、NHK)など、ドラマの出演歴も多数。
「名門の御曹司として生まれましたが、菊之助さんは旧態依然とした歌舞伎界のしきたりに疑問を抱くことも多かったそうです。それが、新ジャンルへの挑戦の原動力になっている。『ダブル菊五郎』も、歌舞伎という文化を未来に繋げていくための“新境地”として捉えているのでしょう」(前出・歌舞伎関係者)
たしかに、大名跡が並び立てば大きな話題を呼ぶだろう。だが、梨園からはひややかな視線もある。
「襲名は単に名前が変わるというものではなく、芸風や得意とする演目も受け継ぎ、名前に込められた魂や精神性も引き継ぐことが求められます。1人しかいないからこそ、当代の価値が上がるというもの。同じ舞台の上に“團十郎が2人、勘三郎が3人”なんてことが許されるはずがない。完全に“掟破り”です」(別の歌舞伎関係者)
本誌『女性セブン』は昨年4月、菊之助の「怒号トラブル」を報じた。
「菊之助の長男・丑之助(10才)を指導したベテラン役者を菊之助が怒鳴り、そのベテラン役者は公演期間中にもかかわらず一門を出て行ってしまい、そのまま廃業。立派な役者に育てるための当然の指導だったのに、菊之助の目には、過剰に厳しいように映ったのが原因だったようです。
わが子かわいさゆえとも言えますが、自分が一門の中心として采配を振るい、テレビなどでも注目され始めてから、菊之助は高圧的な物言いが増えるようになりました。『ダブル菊五郎』も、菊之助が思うままに無理を通しただけ、ということでなければいいのですが……」(前出・別の歌舞伎関係者)
奇策は吉と出るか、凶と出るか。
※女性セブン2024年6月20日号