医師である伊藤さんからすれば、医学的に問題がある行為を薦めている動画だと思っているが、こういう場合に「見るな」とは言わない。なぜかというと、患者が医師を不審がったり、場合によっては逆上することもあるからだ。
「そんな動画を信じてはいけないと言うと、患者さんは自分が間違っていたのか、騙されていたのかと落ち込まれたり、逆に私の言うことなんか信じられないと、怒って帰られる人もいる。今、医師の私と面と向かってお話ししているのに、なぜネットのほうを信じようとしたがるのか。まして私のところに来ているのに、さっぱりわかりません」(伊藤さん)
かつてネット発の情報は、とりあえず疑ってかかれ、ソース(情報源)を確認するのが当然と言われており、実際に確かめてから受け止める人が多かった。ネット情報は”玉石混交”ともいわれ、多くの偽情報の中から、正しい情報を見つけ出す能力こそが「ネットに強い」ともされたと筆者は記憶している。
ところがSNS、とくに動画共有の仕組みが発達してからは、急速にその習慣が廃れ、新聞やテレビ、雑誌といったいわゆる「オールドメディア」より信頼できる存在として受け入れられつつある。当然その背景にはマスメディアへの不信感もあろう。人間は「信じたいものしか信じない」と、よく言われるが、SNSの台頭で、その傾向に拍車がかかっているのかもしれない。
ネットで見たものをすべて信じるな、と言うつもりはない。信じることで生きやすくなることもあるだろう。しかし、気をつけたいのは、信じた情報が真正であればよいが、それが間違っていた場合、指摘してくれる人は誰もいないという事実についてだ。間違った情報をあえて拡散する人たちも存在し、そう言った人々に感化されながら間違った道を邁進せざるを得ない状況に追い込まれるわけだが、当人はそれに気が付かず、その間に病状を悪化させるなどしてしまう。
「セルフ整体で体を痛めても、しっかり正しい施術をすれば回復はします。でも、そういう患者さんは回復前に来なくなったり、別の動画を見て、新たなセルフ整体にチャレンジしてまた来院される。情報が多いのはいいことですが、間違った情報が氾濫している現状は、医師としても頭が痛いです」(伊藤さん)
100円ショップDIY動画の罠
SNSや動画サイトの台頭が、市民間の情報伝達に寄与していることは事実だが、前出の整形外科医・伊藤さんが言うようにさまざまな弊害も孕む。大分県在住の農業・仲野亮さん(仮名・30代)は、同居の母が自宅内のあらゆる場所を「改造」し始め、さらに百円ショップに足繁く通うようになり不思議に思ったという。原因は、最近母が見始めたという動画サイトだ。