当然、そうした補助は、全国的に一律実施されるものもあれば、自治体によってその要件が大幅に違う補助もある。もしマスメディアがこういった補助金を紹介する場合は必ず「自治体によって異なるので、お住まいの地域で確認してください」と注釈がつけられるが、無責任が蔓延るSNSの書き込みや動画にその親切さは見当たらない。冷静に考えれば、そういった違いが存在するのは当然のことで藤森さんはぬか喜びだったとため息をついたが、夫はまるっきり違っていた。
「ネットには書いてあった、と譲らず、役所に怒鳴り込んでしまったんです。しかも、担当者さんに言わせれば、ネットに載っていた補助金に関する情報は、すでに打ち切られた一部自治体でのみ実施していた補助事業や、そもそも要件が間違っている情報だったりメチャクチャでした。それでも夫は、ネットの人は言っていた、(補助金を)もらっていたと引き下がらない。何度説得しても、役所はずるいしケチで、本当なら出さなければならない補助を出し渋っているとまで言い始めました。どうして会ったこともない人の言うことを信用して、目の前で必死に説明している役所の担当者を信用しないのか。恥ずかしくて恥ずかしくて、まるで夫が理不尽なクレーマーのように見えました」(藤森さん)
こうした話を聞いても、ほとんどの読者は「自分とは関係のない情報弱者の話」と受け止めるかもしれない。だが、ここで紹介した盲信的ともいえる人々もまた、自身の言動を否定する人を「情報弱者だ」と切り捨て、自分自身こそがネットを使いこなしてうまくやっている「情報強者だ」と思い込んでいた。だからこそ、自分がバカにしていた弱者のような結末と対峙せざるを得なくなったのである。
ほんの数年前までは「情報リテラシー」「ネットリテラシー」の必要性が強く訴えられていた。最近では、そういった言葉でネットを学ぶことの必要性が呼びかけられることはめっきり減ったが、だからこその現状なのかと思うしかないのである。